翔side



「じゃあ、また夜来るからね〜。」

松本を送り届けて満足した爽太はスキップしながら教室を出て行った。


 

「元気ですね、中学生は。」

「…。」

「お久しぶりです。櫻井先生。」

「…え…あ、あぁ…、久しぶり…。」

まだ頭の中がこんがらがって、この現状を処理しきれていない。


なんで松本がいるの?
爽太がなんで?
どうしてここに?

どこから処理しようか…。

……ダメだ、全然言葉が出てこない。
    


「先生がここにいることは知ってました。」

「そう、それだよ!
俺のこと、誰に…、それになんで松本が…、
爽太は?どうしてここに…松本と…っ、」

「あははっ、櫻井先生、焦らないで。」

まとまらないまま喋ったら、松本に笑われた。


松本の笑顔。
何度夢に出てきたかな…。
夢と現実じゃ、こうも破壊力が違うのか。




「順を追ってお話しします。
まずここに櫻井先生がいることは二宮先生に聞きました。」

「二宮先生!?会ったのか!」

「はい、学校に行って、お礼をしに。
あの頃、ちゃんと伝えられなかったんで。」

「お礼?」

「二宮先生は僕達の関係を知っていました。
知っていて黙認してくれてたんです。
僕らがどのような結論を出そうが、それを受け止めるとあの時休んでいた僕に言ってくれました。
だけど、あの頃の僕はまだ子供で自分のことで精一杯で…。
気にかけてくれたこと、ずっとお礼を言いたかった。」

二宮先生、知ってたんだ…。
卒業式の日にも意味深なこと言ってたような…。



「あと、斗真も。
何があったのか、教えてくれたよ…。」

「生田…アイツ…。」

「卒業式の前日にうちに来たんだ。
泣いて謝ってきた。
自分が邪魔したからって…。
先生とも話したって、潤、ごめん…て。
先生、僕にはこの事言うなって斗真に言ったんでしょ?どうして?」

「アイツだけが悪いんじゃない。
一番悪いのは俺だ。
だから、生田のことは許してやって…。」

「わかってる。
告白してくれた斗真の気持ちをちゃんと汲んであげなかった僕も悪いんだ。
4年前の話だし、その時すでに許してるよ。
斗真は今でも大切な親友だ。」

「そっか、よかった…。」

「あとね、爽太くんのこと。」

「そうだ!あの子とは知り合い?」

「僕の夢へのきっかけをくれた。
櫻井先生が守ってくれた僕の夢。」

「えーと?意味が…」

「この度、その爽太くんのプラネタリウムの館長になりまして。
これも二宮先生からの助言です。
閉館目前のプラネタリウム館を助けないかって。」

二宮先生の情報網とは?
あの人、ただモンじゃねぇ!


「え??だって、お前の夢って…、
宇宙に行きたいって…。」

「宇宙飛行士にでもなると思いました?
僕は地球から見る星も好きですよ。」

「そういうこと……?」

なんか俺だけ壮大な夢を抱いていたのか?
確かに宇宙飛行士とはかなりでっかい事言うなぁとは思ったけど。
それでもプラネタリウム館で働くってことは、大学で学んだことは天体観測の知識としてかなり役に立つことには間違いはない。
見に来た子供たちもきっと喜ぶだろう。
爽太みたいに。




「翔さん…。」

「え?」

松本からまたそうやって呼ばれる日が来るとは予想もしていなくて、俺は弾かれるように松本を見た。


「ちゃんと大人になって、会いに行こうって決めてた。
もう子供じゃない、これから責任をもって仕事も始める。
天体に関わることができる夢のような仕事。
あれから自分のことは自分で決めてきたよ。
ねぇ、まだ断られる理由はあるのかな…。
僕達、まだ離れている理由はあるのかな…。」

「松本…。」

「櫻井先生、僕と付き合ってくれませんか?」

初めての告白と同じ言葉で俺に問う。

そして、また君は泣きそうに笑うんだ。



「…俺はもうお前の先生じゃない。」

「…うん。」

「俺にはもう別の人がいるとか、思わなかった?」

「思わない。
僕が大人になるまで待ってくれてるって信じてた。」


一歩、また一歩と、
俺との距離をなくしていく。



「翔さん、大好き。
初めて出会った日から、変わらない…。」

松本は俺の手を取り、ぎゅっと握った。


「俺も…、俺もホントはずっと好きで…。
松本のこと、あの頃から今までも忘れたことなんてなかっ…、…っ、」

グッと思いきり引かれて重なった唇。


「潤て、呼んでよ…。」

唇を離すと、
そう、ほんのり頬を染める。

俺の部屋のベッドの上でそう言ったあの日が昨日の事のように蘇ってくる。
 

「潤…っ、」

その人を腕の中に抱きとめると同時にもう一度深く唇を合わせた。


「しょ、さ…、…んっ、」

離れていた日々を埋めるかのように俺達は有り余るほどのキスを交わす。



繋いだ手はそのままに。

これからもずっと、そのままで。






おわり






翔くんハピバ♡
最後まで読んでいただきありがとうございました(`・3・´)
あとがきはまた夕方にでもあげますので、よろしければお付き合いください(*´∀`*)