テレビもない潤の家。
黙ってると本当に静かな空間で、この世界には俺達二人しかいないんじゃないかと錯覚するくらいだ。
「急いで来たんだけど…、待たせてごめんね。
寒かったよね…、ごめん…。」
潤とこたつの中、始めは手を繋いで隣に座っていただけだったけど、いつの間にか潤は俺の腕に凭れるように寄り添っている。
顔を覗き込めば、ん?と言ったように視線をこちらに寄越す。
「ううん…、なんでまあくんが謝るの?
僕があそこにいたかったから居ただけだよ。」
「ケーキも買えなかった…、ごめん。」
「ケーキ?甘くてフワフワした?」
「そればかりでもないけど。」
「んー、ケーキがなくっても今はこうしてあったかいし、まあくんもいて、すごく幸せな気分…。
クリスマスって幸せになれる日なんだね。」
何もクリスマスらしいことできてないのになぜか潤はニコニコと嬉しそうに笑う。
「まあくんがいたら僕はそれだけでいいんだよ。」
松潤の顔でそんなこと言わないでよ。
『俺ね、翔くんがそばにいてくれたら、それでいいんだ。』
さっきまで一緒にいた松潤と似たようなセリフを目の前の潤は俺に言う。
「ありがとう…。嬉しいよ、潤。」.
引き寄せて抱きしめるとふわりとミルクの香りがした。
どことなく甘い、どこか懐かしい。
ここにいるのは潤だ。松潤じゃない。
「まあくん…、昨日と違う匂いがする。」
「…え?」
「なんの匂い?甘い…。」
「そう?」
クンクンと自分の服を嗅いでみるけど、洗剤を変えてもないし、俺は香水も使ってない。
『うわぁっ!ごめん、相葉くん!』
『あぶなっ、気をつけて!』
帰りがけ、つまづいた松潤を抱きとめた時に薫った香水。
それとは違う松潤のフェロモンとでも言うのだろうか…、蝶を引きつける花のような魅惑の香り。
一瞬だったけど、俺の中のオスの本能が疼いた。
その時の松潤の匂いが…?まさかな…。
俺の嗅覚じゃ、やっぱりわからない。
「そうだ!まあくん、お腹空かない?」
「あ、そう言えば…空いた…。」
松潤とは酒と少しのつまみ程度しか食べてない。
「クリームシチュー食べる?」
「作ったの!?食べたい!」
「待ってて。あっためてくる!」
ピョコっと立ち上がり、奥に消えていく。
さっきまで暖かかった隣が急に寒い。
「潤、手伝うよ!」
追いかけるとお鍋に火をかけて、おたまをぐるぐると回してる。
鼻歌交じりに歌うその曲は…。
「…WISH。」
「あれ?まあくん?」
「どうして、その歌…」
「あー、なんかね、頭の中でメロディーが鳴るんだ。どこかで聴いたのかなぁ?
この曲素敵じゃない?
すごくハッピーな気持ちになる。」
潤が歌うのはメロディーだけ。
しかも一部。
それを歌ってる人が俺だなんてことも知らないで。
「教えて?
一緒に歌いたいな…。」
「いいよ♪」
シチューが温まる数分、二人でハミングしながら笑い合う。
その先まで歌っちゃいそうになるけど、グッと堪えた。
潤には俺がそういう仕事をしてる人間だと知らないでいてほしい。
ありのままの俺を見ていてくれることにものすごく安らぎを感じていた。
「熱すぎ?」
歌に夢中になって、ぐつぐつと煮えたぎるシチューの火を慌てて切った。
やっちゃったぁ…と頭を抱える潤だけど、でも楽しかったから全然いいじゃん!と頭を撫でた。
ふぅふぅと冷ましながら慎重に食べようとするけど、隣の潤はスプーンすら持たない。
「食べないの?」
「……熱いの苦手なんだ。」
「猫舌?
くふふっ、俺の為にあんなに熱々にしてくれたんだ。」
「まあくんは熱い方がいいかなって…。
気にしないで先食べて?」
「うん、ありがとう。
じゃ、冷めないうちに…いただきます。
…あ、ちっ!」
「まあくん!?」
表面温度は下がってたけど、一緒に食べたジャガイモがまだ熱かった…。
唇と舌にピリっと痛みが走る。
「平気平気…」
潤に変な心配を掛けないように、実際そこまで痛みも大袈裟なもんでもなかった。
「うま……、い…よ…」
ペロ……、、
え………?
それは一瞬。
俺の唇に潤の指が触れた。
潤の顔がドアップに迫って、俺の下唇の端をなまぬるい感触が走る。
それは柔らかく、甘い、蜜の味。
「だいじょうぶ?まあくん。」
ふっくらとした潤の唇がゆっくりとスローモーションで動く。
いつも見慣れてるはずのホクロがやたらと俺を誘っているように見えて、
何かが弾けた。
「まあく…、、…んん…っ!」
カランとスプーンが皿に当たって落ちる。
投げ出すのと同時に俺は潤の唇を奪った。
「……ふっ、ぁ…」
静かな部屋。
絡まるリップ音と互いの吐息がしか聞こえない。
「じゅん…」
潤は全くと言っていいほど抵抗しなかった。
それどころか俺を全身で受け入れようと手を伸ばす。
「ハァ…ぁ、、まぁ…っ、まあくん…っ」
「なんて綺麗…。」
くびれたウエスト。
松潤と全く同じフォルム。
声も身体も、何もかもが松潤で現実なのか夢なのかもわからなくなってくる。
俺が松潤を組み敷く日が来るなんて…。
「潤は本当に色が白いね。」
少し吸い上げるだけで、甘噛みするだけで、痕が残る。
それがまた俺の征服欲を煽る。
「そんな風に言われたの、はじめてだよ。」
潤はまたうっとりと目を細める。
俺は床に投げ出された潤の手に自身の手を重ねて、強く握った。
「もっと…、きて…っ」
「潤っ…!」
目をつぶって、潤を感じた。
目を開けば、そこに映るのは乱れた松潤の姿。
そしてまた目を閉じる。
これが翔ちゃんが見る松潤の姿なの?
俺が今抱いているのは潤だ。
松潤だけど、松潤じゃない。
頭が混乱してくる。
たけど、ずっと溜め込んできた欲望が満たされているという真実に抗うなんて無理なんだ。
長年の想いは自分でコントロールできるほど簡単な事じゃない。
溢れ出して、暴走する。
俺は盛った動物のように潤を貪った。