翔side
「…ん、ふっ……」
俺は覚えてるよ。
こうして重ねた唇の感触を。
お前はもう忘れたの?
それともまだ夢だというのか?
これが俺の『証拠』だよ。
お前が証明しろって言うから、俺は止めない。
「…だ、めだっ、…しょ、ぅんっ、」
抵抗しようとして首を振るけど、その度に外されそうになる唇を追いかける。
認めるまでしてやる、何度でも。
離さない、絶対に。
捕まえてる手首にも力が入っていく。
キスも当然に深まって、さらに俺は舌をその口内に差し込んだ。
「…っ、んんっ!?」
驚いたのかぎゅっと瞑られていた潤の瞳がカッと見開いた。
「…ぁ、や、めて!!」
「…うあっ!」
俺の方が力はあると思ったが火事場の馬鹿力とでもいうのか、それを上回る力で俺は弾き飛ばされた。
なんの支えもなく後ろ手に尻もちを着いて目の前にいる潤を見上げれば、唇に滴る俺達の唾液を手の甲でグイと拭いながらハアハアと乱れた息をして、未だ壁にもたれかかったまま。
「なにすんの……、何してんだよっ!
こんなとこで、こんなことして…正気なの!?」
さっきまでビクビクしたような態度をしていた潤が一気に声を荒らげた。
けれどその目は潤んでいるようにも見える。
「正気だよ…。
お前が逃げるからだろ!隠すからだろ!
なんで夢だなんて言うんだよ…。
俺は夢になんかしたくないよ…。」
俺だって悲しいよ。
お前が朝いなくても、ずっと潤の残像が残ってるんだ。
だから否定されることが悲しい。
「夢なんだ…。夢なんだよ、あれは。」
ちっとも認めない潤に逆にもうキレそうだ。
怒ったって、泣いたって、お前が「夢じゃないよ。」と言ってくれないとどうにもならない。
俺は立ち上がり再びその手を取る。
「なんでわかんねぇの!?
思い出すだろ!
この唇だって、この繋いだ手だって、その温度も体温も、触れたらそこから熱を帯びる。
だって、俺はお前を抱いたからっ…!」
「もうそれ以上言わないで!」
「……そう簡単には消えねぇんだよ。」
潤の肩にそのまま頭を預け、おデコをつけた。
「翔…くん…」
このままずっと寄り添っていたい。
こんな階段の踊り場で、それこそ誰かに見つかってもいいから。
騒ぎになるだろうな…。
週刊誌に書かれて、変に噂されて、色々言われるんだろうな…。
それでも俺は潤を手放したくないよ。
「どうしたの?ケンカ?」
「…あ、」
俺達じゃない声がして、潤の反応に頭を上げて振り返る。
「智くん…」
「お邪魔だった?ごめんね。
でも…」
「大野さーん!櫻井さんいましたかー?
どーこ行ったんだろ。
トイレにいなかったですよね?
あ、松本さんも探して来てって言われてたんだったー!」
遠くの方からバタバタと足音とスタッフの慌てた声が聞こえてきて、やっと潤から少し距離を取った。
やっぱり男同士で抱きついてたらマズイよな。
冷静に考えたらわかること。
「こういうことだから。
タイムリミットね。」
「ごめん、すぐ行く。」
智くんからも見えないようにして、その手を強く握った。
潤…
背にいる潤はどんな顔をしてるのかわからない。
「じゃ、先行くわ…。」
「…っ、ぅ…」
詰まらせた声が聞こえてきて、横目で確認すれば手で口元を覆い、瞳からボロッと涙が零れ落ちたのが見えた。
俺が出ていけば一先ずここに人は来ない。
大丈夫、泣いている姿を見られることはない。
それは後悔の涙なのか?と、
そうであってくれと思ってしまう自分は最低だけどな。
「智くん、潤のこと…」
「わかってる。心配しないで。」
「ごめん…、ありがとう。」
言いたいことは言った。
この先の判断は潤に委ねよう。
俺達が進むも終わるも潤の好きにすればいい。
だけど、俺は潤のこと信じてるから。