翔side
「もう適当でいいんでマッハでお願いします!」
イスに座るなりメイクさんに声をかける。
テレビに出る人間としてあるまじき発言。
でも今日は勘弁してくれ。
思い過ごしでなければ、アイツは確実に俺に助けを求めて縋ってきた。
なのにさっきは突き離された気がした。
みんなが来たから?
それもそうかもしれないが、明らかにわざとらしい態度だった。
そう…何かを思い出したような…。
だから急にあんな…。
まだちゃんと話してないんだ。
どうしてあんな風に倒れ込んだのか。
そして、ジュンという言葉。
あの状態で自分の名前を呼ぶか?
不自然だし、それに、嫌だって……
その意味は?
「櫻井さん、できましたよ!
これで大丈夫で…」
「全然オッケ!ありがと!」
メイクさんが確認する間も惜しんで立ち上がり、メイクルームを飛び出す。
収録時間が迫る中でゆっくりと話す時間はないかもしれない。
だけど気になって仕方がないんだ。
楽屋前に来て、ひと息。
ゆっくりと扉を少し開くと潤の声がする。
盗み聞き……そんなことするつもりじゃなかったのに結果的にそうなってしまって、俺は耳を疑った。
「………旅に一緒に行っちゃダメかな。」
え……………?
楽屋にいるのは潤と、智くん。
旅に出る?
はっ?何言ってんの?
どこに?なんで?智くんと…?
その後も何か喋ってるみたいだったけど俺の頭ん中は、
『潤が俺のそばからいなくなってしまう』
そのことで埋め尽くされた。
カッと頭に血が上って、思わずノックもせずに踏み込む。
「フザけんじゃねぇ!!」
潤に怒鳴ったことなんてあっただろうか。
記憶にある限りではなかったし、ましてやこんないい歳になって人に対して大きな声を荒らげるなんてカッコ悪いったらありゃしない。
「翔…くん…」
驚き、目を見開いてこちらを一点に見つめる潤を見たら怒りよりもむしろ、なんで俺には相談すらしてくれないんだと悔しさと虚しさが一気に押し寄せてきて、
「お前…、バカやろ…」
俺、泣くかと思った。
「翔くん、メイク終わったの?」
言葉を失って佇む俺と固まる潤。
それを打ち破った智くんの声で我に返る。
「あ、あぁ…」
「じゃ、松潤早く行っといで。
もう行けるだろ?」
「え、あ…、うん…。」
「ちょっと待てよ、まだ話が…」
横を通り過ぎる潤の腕を掴んだ。
「まだなんも解決してない。
しかも今の話は聞き捨てならない。
全部聞くまで納得できない。」
またふつふつと込み上げてくる自分の気持ちが抑えられなくなってくる。
想いが手から溢れ出して、力のコントロールができない。
「しょ、くん…、いたい…。」
「お前がなんも言ってくんないから…。」
なお、掴む力は強くなる。
「だから……、」
「ストップ。
翔くん、やりすぎ。
松潤、行きな。時間なくなる。」
手を離すように掴まれ、潤の腕から引き剥がされた。
いつもはゆるっとしてる智くんなのに、こんな時ばかりなぜか力強い。
身体能力が高いのだから、護身術みたいなのもきっと得意なんだろな…、なんて考えてしまう。
「いってきます…。」
俺の掴んでいた場所を反対の手で庇うように潤は楽屋から出ていった。
「なんで邪魔すんの?」
「ビビらせてどうなる。
いつも冷静な翔くんが珍しいね。」
「だって、アイツが、あんなこと言うから!」
「なんかワケがあんだろ。」
「どんな理由だよ…。」
「松潤のことになると翔くんもよく取り乱すよね。」
「だって………、心配で……」
「なんかあるんだよなぁ。」
「…なんかって?」
「何かに縛られてるっつーか、
何かを気にしてるっつーか…、
言えない何かなのか……。」
「もー、わかんないことばかりじゃん。」
結局俺らがいくら考えたところで真相には辿り着かない。
それでも智くんのお陰でさっきまでのぐしゃぐしゃな感情に少しだけ落ち着きを取り戻せた。
今から収録だ。仕事だ。
私情は持ち込まない。
よし、ちゃんとやれる。
次は収録後にちゃんと話してもらうからな。
