「よし、作戦会議しよ。」

二宮くんはそう言うと、学校が終わると同時に僕の手を取り、教室を後にした。



「君んちどこ?遠い?近い?」

「僕、自転車だよ。
二宮くんは?」

「オレも。よし、行くぞ。」

「え、え?行くって、うち??」

「こんな大事な話、外でできるか。」

「そりゃそうだけど…。」

言ってるうちに駐輪場からガチャガチャと自転車を取り出してくる。



今日に今日だよね、君と会話したの。
なのにもううち来るの?

彼はクラスの中でも喋るほうじゃない大人しい印象だった。
でもそんなの違った。
行動力もあるし、僕にはこうやってよく話す。


「ねぇ、でも!明日テストだし!」

僕の最も苦手な数学。

「勉強しないと…」

赤点なんてとったりしたら、先輩に引かれちゃう。



「大丈夫、オレに任せて。」

「えぇ?」

「早く案内して。」

「は、はい!」

言われるがまま自宅に到着。
自転車を二台庭に並べて家に入る。
まだ誰も帰ってはいなかった。



「じゃ、まずは課題とテスト対策ね。」

僕の部屋に入った途端、カバンを広げる。
とにかく彼の動きには無駄がない。

「ちょ、待って!
飲み物持ってくるから!」

昼間から彼のペースに乗せられっぱなしだ。

ほんとに僕の悩みを聞いてくれるのかなぁ?
まだ二宮くんの話は全く聞けてないのに。



グラスにジュースを入れて持っていく。
こうしてこの部屋にも先輩が遊びに来てくれたらいいのにな…。
恋人同士になれたら、そんなことも叶うのかな…。

はぁ…、すぐこんなこと考えてしまう。

好きだと思う気持ちは諦めるどころか、大きくなる一方だ。



「遅い。」

「すみません!」

部屋に行くと戻される現実。
セットしたローテーブルにノートを広げて、すでに彼の課題は半分ほど埋まりつつあった。


「もうこんなに…!?」

「ちなみにオレも推薦入学だから。ココの。」

トントンとこめかみをつく。



「オレと仲良くするのは、君にとって悪い話じゃないだろ?」

悪魔の囁き…。

「僕になにをしろと…」

「ははっ、そんな怯えないでよ。
冗談だよ、普通でいいんだ。
普通に友達でいいんだよ、潤くん。」

「潤くん?」

「ニノでいいからさ。」

「二ノ…」

「改めて。仲良くしてね。
ずっと潤くんと話してみたかったんだよ。
気づかなかったでしょ?」

「うん…」

「君の頭の中は本当に櫻井さんでいっぱいなんだね。」

「あ、ねぇ、その事なんだけど…。」

「英語は櫻井さんに教えてって甘えてみたら?
あの人、世話好きそうだし。
話せるくらい親しいならそれくらい…」

「…できないよ。」

「どうして?」

「だって…、先輩は、僕の…、」


話しかけて、ドアの向こうの話し声に言葉が止まる。


近づく声。
1人は姉ちゃん。
そしてもうひとりは…

「潤くん?」


学校では独り占めだなんて思ったって、こうして突きつけられる現実。

「この声…?」

「ニノ…。あのね…、」

言うが早いか、ニノは僕の部屋のドアを開けた。



「あら?潤、お友達?
いらっしゃい。
ゆっくりしてってね。」

「……どうも。」

姉ちゃんが挨拶するとニノはボソリと呟いた。


目の前の姉ちゃんと先輩の並んでる姿を見たくなくて、僕は思わずニノの背中に隠れて目を伏せた。