リビングを出た所で帰ってきた親父と鉢合わす。


「ただいまー。ん?どうしたんだい?」

俺達の微妙な空気を悟り、様子を伺うように俺の後ろにいる潤に声をかける。

「パパ。…おかえりなさい。」

「…なんでもねぇよ。
俺、ちょっと隣行くわ。」

「今からまた出るのか?
もうご迷惑だろ、明日でも…」

いつもより少し遅めの時間帯だからさと兄の家には悪いんだけど、同じ家にいて同じ部屋には今は戻れない。

「ちゃんと謝るから。」

「ダーリン、待って…っ」

背中越しに微かに聞こえた声に反応もせず、バタンという乾いた音とともに俺と潤の間には壁ができた。






「なんつー顔してんの?」

さと兄は俺が部屋に入るなり、俺の表情からザワついた心を読む。

「潤となんかあった?」

「なんで?」

「この時間で潤が一緒じゃないってことはそういうことだろ。」

俺が行くとこ行く場所、特にさと兄の所に来る時には必ずくっついてきた。
絵のモデルをする時は逆に俺は来ちゃダメだって言うくせに…。
マジでヌードとかしてたりして…
だからダメなのかよ。
て、それもずっと気になってるけど、今はそのことじゃなくてさ…

「当ててやろうか?」

「え?」

「とうとう潤に告白でもしたか?」

「してねぇよ!するわけ…」

あぁ、そうだった。
「俺も好き」だなんて言うつもりだった?
俺は潤にどんな言葉を言うつもりだったんだろう。


「ちげぇの?」

「違うわ。」

「それもそっか。翔が告白したら、潤はお前を離すわけないもんな。
今頃イチャイチャでもして、ここにそんなチンケな顔して来たりしないよなぁ。」

「ひっど…」

「で?なんか話したいことがあんだろ?
聞いてやるよ。」

「うん…、あの、さ…」

兄弟のいない俺は昔からさと兄にはなんでも相談してきた。
さと兄は無理に答えを出したりはしない。
話を聞いてくれる。
すぐに暴走気味になる気持ちを整理する時間と空間をくれる。
それだけで随分と俺は助けられてきた。


今回の潤のことも潤に言い放ったようにすべてをぶつけた。

「なんで俺にはなにも言わねぇんだよ。
あの男は潤のことはなんでも知ってますみたいな顔してさ。
潤なんて俺のこと友達だなんて言うんだぜ?
どこが友達だよ。
友達と毎日一緒に寝るのかよ、アイツは!!」

「へぇ…、毎日。」

「毎朝、おはよう、ダーリン♡なんて甘い声して起こしてくるくせに、友達ってなんだよ!」

「へぇ…、甘いんだ。」

「とにかく!あのニノってやつはなんだよ!
潤に軽々しく触れたりしてさ、なんで潤も抵抗しないんだよ!」

「へぇ…、触れる、ねぇ。」

「潤と向き合うつもりで、一緒に映画行って、すっげー楽しくて、アイツに好きなのかもって伝えようって、そう思ってたのに。
俺、わかんなくなっちゃったよ。」

「なにが?」

「……好きなのかもどうなのかも。」

「え?本気で言ってんの?
これだけ言葉にしてるくせにわかんないって言うの?」

「だって俺は潤のことなんも知らねぇし。
潤だって言わねぇし。」

「翔が聞かなかっただけだろ。
潤に興味持ってやったか?」

「う…、でも、ニノってやつの方がなんだか親しげだったし…。」

「はい!それ。」

「はい?」

「翔が気に入らないのは潤の過去を知らされていなかった事じゃない。
そいつが潤に馴れ馴れしくしてるのが気に入らないんだ。」

確かにずっと残るのはニノというやつの余裕な笑み。
あの感じ、あの態度。
アイツは潤のことが好きだろう。
潤は?ただそれだけ?どんな関係?
俺よりも近い距離にいたアイツと潤とのことが気になる。
だから潤のことを知らない自分にイラつくんだ。


「それってつまりはただの嫉妬だな。」

「嫉妬…」

「妬いてんだよ。
潤のこと、しっかり好きなんじゃん。
わかってたことじゃん。」

「そんなドヤ顔で言われても…。」

今まで女のコを好きになるのに過去がどうとか気にしたこともなかった。
顔が好みでもちょっと話しては結局友達止まりだったけど。
なのに潤のことは勢いだけでは行けない。
それはアイツが男だから?


「翔は考えるのが好きだなぁ。」

「別に好きじゃねぇし。」

できたらこんな気持ちにはなりたくなかった。

「悩みついでにいいこと教えてやろっか。」

「ついでで悩みたくはないけど。
なに?なんか知ってんの?」

んふふって含み笑いをする。

あ…
こういう顔をするさと兄はとんでもないことを言い出すんだ。


「やっぱいいっ!」

いいって言ったのに…


「オイラも潤のことが好きだ。」

間に合わなかった…。