「潤くん、やっと会えた。
心配してたんだよ。
急に病院から いなくなるんだもん。」
「…ごめん。」
「もう身体は大丈夫なの?
怪我は…?うん、よさそうだね。」
「…もう、大丈夫。」
ふたりで繰り広げられる会話の意味がわからない。
俺はただ横で突っ立っている傍観者だ。
急にいなくなる?病院?
怪我?身体、大丈夫って…
潤の身になにがあったのか。
俺は一緒に住んでいながら何も知らない。
……知らされていない。
電車到着のアナウンスが聞こえる。
ドアの開く音。
俺達を避けながら多くの人がすり抜けていく。
「今どこにいるの?家にも行ったんだよ。
そしたら、売り物件って…」
「ニノっ!」
「なんで何も言わないでいなくなったりしたの?
オレ、潤くんの支えになるって言ったよね?」
「ごめん。」
「謝る必要なんてない、俺には甘えていいんだよ。」
そいつは周りの目も気にせず、潤の頬を撫でる。
「おいっ!!」
思わず出た声。
咄嗟に手を払う。
「…この人は?」
その男は俺の方をチラっと見ては潤に問いかける。
「俺は、」
「と、友達。同じ学校の。」
「へぇ、友達…。どーも。」
潤が俺の言葉を制止する。
余計なことは言わなくていいって事?
友達?
家でも学校でも散々俺に甘えてくるくせにコイツの前では友達扱いかよ。
他人行儀な言い方にカチンときた。
「遅くなるから帰るぞ。」
「しょおくん…。」
反対側の潤の手を掴んで行こうとした。
「しょうくん?あぁ、あの…。」
あの?…コイツ、俺を知ってる?
「その制服、南高だね。編入したんだ。
潤くんはうちの制服もよく似合ってたんだけどな。」
「潤、行くぞ。」
終わりの見えない会話。
強引に発車直前の電車に乗り込む。
「また会えるよね?
その時には時間ちょうだい。」
潤は俯きコクンと頷く。
ドア越しにそいつは俺には軽く頭を下げ、その後も潤を見つめては微笑んでいた。
ゆっくりと動き出す電車。
重苦しい空気。
さっきまで告白しようとして高揚していた気持ちがすっかり冷めきってきた。
「ダーリン…、」
「話は帰ったら聞く。」
人がいる中でする話ではないし、なにより俺が冷静に話せるかどうかわからない。
家に着くまで互いに一言も発さないまま玄関のドアを開ける。
まだ親父も帰っていなくて、家の中は暗い。
リビングの灯りをつけ、バックをドサッとソファに投げる。
沈黙が続く。
何から切り出したらいいか。
気になることがありすぎるだろ。
潤は俺の態度を伺うように入口に立ち止まったままだ。
「座れば?」
「…うん。」
「聞いていいか?」
「うん…。」
すぅっと息を吸い込む。
「…アイツは誰?
随分親しいみたいだったけど。
お前、東高にいたの?
なんでわざわざうちに編入したりしたんだよ。
向こうの方がレベル高いだろ。
病院がどうとか何?どっか悪いの?
そういうのって一緒に住んでて知らないっておかしくね?
家が売られてるってなんだよ。
親が戻ってきてもあの家には住まないってこと?
なんで?そんなに長く帰って来ねぇの?
お前はそれでよかったのかよ。
それに…、アイツには言えて、俺には言えないんだろ。
それこそ友達なんかじゃない。それ以下だ。」
息継ぎもそこそこに思ってること全部言ってやった。
潤の言い訳する隙を与えずに。
言ってみてよくわかった。
「俺はお前のこと、なんにも知らない。
お前だって会ってなかった頃の俺を知らないだろ。
知らないやつのこと好きとかどうとか…
やっぱ違うだろ。」
わからなくなってしまった。
潤のことも潤に対する想いも。
「…やめだ。今日はもう話すのやめよう。」
立ち上がり潤に背を向け、リビングのドアに手をかける。
「まっ、て…」
潤は咄嗟に俺の腕を掴んだ。
俺を見つめたまま、その大きな瞳が潤み出す。
その声は小さく震える。
黙ってその手を振り払う。
俺の湧き上がる気持ちは収まりがきかない。
だから家まで我慢してたんだ。
こうなること、自分でわかってた。
このままだと感情のまま潤に当たってしまう。
いや、もうほぼぶつけていた。
どちらにしても潤の涙は見たくない。
俺の言葉で傷ついた潤を見たくないなんて、
自分勝手もいいとこだ。
