「潤ちゃん!」
「潤!」
潤に駆け寄ったのはほぼ同時だった。
クラスの大半は移動していたけど、なかなか立ち上がらない潤をお互い気に掛けていたのだ。
けれど、バスケで培った俊敏さというか、手足の長さというか、咄嗟の判断が雅紀の方が俺よりも勝っていた。
それだけ雅紀も潤を見ていたということだ。
好きな人なのだから気にするのも当たり前。
朝来て、潤を見るなり
「具合悪い?無理しちゃダメだよ。」
そう声を掛けたくらいだ。
「ま、くん…、ごめんね、大丈夫だから…。」
大丈夫なわけがない。
朝よりも確実に悪化しているはずだ。
くそ、無理にでも休ませるべきだった。
「潤ちゃん、俺に捕まって。」
「え?」
一瞬にして潤を抱えた。
潤が瞬間的に雅紀に抱きつく形になる。
「かっる!潤ちゃん、ちゃんと食べてる?」
「…食べてる。」
「翔ちゃん、俺、潤ちゃん保健室連れてくわ。
次の授業遅れるから言っといて。」
「お、おいっ!」
お姫様をさらう王子様のように颯爽とその場を立ち去ろうとする。
から…
「待て!俺も行く!」
遅れをとりながらもその後ろを追いかける。
「せんせー?びょうにーん!」
「おい、声がでけぇって…。」
見渡すと誰もいない。
「あれ?せんせーは?」
「午前中研修て入口に書いてあったぞ。
見てから入れよ。代わりの先生に言ってこないと。」
「じゃ、潤ちゃんベッドに寝かすね。」
まるでキスでもしそうな距離を保ちながら、ゆっくりとベッドに潤を下ろす。
ベッドに横たえると、ふぅふぅと荒い呼吸を繰り返し、目を閉じて苦しそうだった。
「首、苦しいかな…?」
「だな…。」
雅紀は潤の首元からネクタイを緩めて、ゆっくりと抜き取り、第一ボタン、第二ボタンとワイシャツのボタンを外していく。
ん…、と身じろぐ声がなんだか男のくせに色っぽい。
「なんかさ…
イケナイコトしてるみたい…。」
「ばっ!バカじゃねぇの!!
潤は男だぞ!!しかも病人だぞ!!」
まさか雅紀と同じこと考えてました。
なんて、バレた?何考えてんだ俺は!
誤魔化すように声がデカくなる。
「冗談だよ。翔ちゃん、声でかいって!」
シーっと振り返る雅紀に静かにと言われ、慌てて口を抑える。
「熱、高そうだね。
早退した方がよさそう…。
潤ちゃん、苦しいね。
どうしたの?潤ちゃん…。」
優しい顔で潤の髪を撫でる雅紀は本当に潤を愛おしそうに見つめてて、俺は腹の奥がギュッとした。
なんだろ、この感覚…。
すごく気分が悪い…。
寄り添う雅紀に目を閉じながらもそれを受け入れているかの潤。
ふたりを見ていたくない気持ちになるのに、
二人きりにもさせたくなくて、
俺はその場から動けないでいた。
「翔ちゃん、せんせー呼んできてよ。」
雅紀に言われてもこの場から動きたくなくて。
「翔ちゃん?」
俺がいなくなったら、雅紀は潤に手を出したりすんじゃねぇかって。
親友なのにそんなこと考えちゃったりして。
「俺、潤と…いる…。」
苦しそうにする潤を置いてはいけない。
潤は家族同然なんだから…
そう自分に言い訳した。
「翔ちゃん……、
ん、わかった。ふたりで授業サボろっ!」
雅紀はきっと俺の気持ちに気づいていたのかもしれない。
けれどあえてそれを言わないのは俺に気づかせたくなかった雅紀の潤への想いからだったんだろう。
俺がもっと早くに自分の気持ちに気づいていれば、潤はずっとここにいてくれたのだろうか。
人の気持ちは思った時に、思ったように動かない。
