潤side



時計の秒針はまた12を回った。

刻々とすぎる時間。
カズが僕とサクラを迎えに来るはずだ。


僕はケータイに手を伸ばす。

……え?

その手を捕まれ、顔を上げる。


ショウの手が僕に触れる。

「ショウ…、もう時間じゃ…。」

「黙って。」

「……。」

ショウの肩に凭れるようにソファに座り、トクトクと脈打つ鼓動が響きそうなくらい静かな空間。



また秒針は12を回る。


食器は片付けた。
乾燥機の僕の服も乾いて、ショウから借りた服から自分の服に着替えた。

ショウは?

時計ばかりが気になる。
今日は何時まで一緒にいられるんだろう。
次はいつ会えるんだろう。
あ、コンサートの日?
違う。
サクラじゃない。
ショウに会えるのはいつ…?


「もうすぐお迎えかな…。」

「そうだな。」

「じゃあ、支度しないと…いけないね。」

「このままでいいから。」

立ち上がろうとするとすぐにその手を引かれる。


「離れたくないな。」

「……うん。」

どうしよう。
そんなことは到底無理なのに。
どうしても抱きしめるこの手を解けない。



そんな風に制御の効かない自分自身でせめぎ合ってたから…

僕は気づいていなかった。
光るケータイの通知。
カズからはとっくに連絡は来ていたことに。





ガチャ…


「人待たせてなにしてんの?
タイムリミットですよ。サクラ。」

扉が開くのと同時にいるはずのないカズの声が聞こえる。

え?ええっ!?

ショウの腕の中から振り返るとそこには腕組みをしたカズの姿。

「カズ!いつから!?」

え?見られてた?
え?いたの?
何時何分何秒から!?

よく知る人物に自分の甘えた姿を見られてたかと思うと急に恥ずかしくなって体温が上がる。
暑いのかなんなのか変な汗も出てくる。


「空気読めよ。邪魔すんなよな。」

「…ショウ、知って…!?」

後ろから抱きしめられたままで動けない。
首を捻って顔だけ振り返ると、さらに唇にチュッとキスを落とされた。

「し、し、ショウ!!」

なにしてんの?カズの前で!!


「ふふっ…、顔真っ赤。」

僕のファーストキスを奪った時と同じセリフ。
楽しそうに笑うショウ。
僕を見る優しい瞳。


ただ違うのは、今は恋人だという事実。



「ほら、もう行くぞ。十分だろ。
永遠の別れじゃあるまいし。」

そういうとカズは僕らに背を向け、玄関に向かう。


「じゃ、今日は…行こっか。」

「うん。……ねぇ!」

「どした?潤。」

「また電話していい?……約束、したい。」

「約束?」

恋人ってこういうこと、いちいちしないのかな。
でも恋人だから、こういうことしたいんだ。

「おうちデート…て言うか、ほら、外で会うわけには行かないでしょ。だからその約束。
またここに…、」

「いつでもいいって言ったろ。
連絡待ってる。つか、俺が我慢できねぇ。」


言葉を遮り耳元で囁かれて、いつもは恥ずかしくて発動できないスイッチを押された気がする。

「ありがと。ショウ、約束だよ。」

「……っ!じゅん!?」

僕は小指を絡ませ思わず不意打ちにキスをした。

「ほら、これ以上待たせたらカズが怒っちゃうよ。」

ショウとの甘い時間が止まらなくなりそうだから、僕は火照る顔を見られないようにショウの腕を引っ張って玄関を飛び出した。




「ごめんね。カズ、連絡気づかなくて。」

車の後部座席にふたりで乗り込みながら謝る。

「…ったく。部屋まで来いって言っておいてなんで見せつけられなきゃなんねーんだよ。」

恋人繋ぎのままの手をなかなか離さない僕らを見てカズはすっかりご立腹だった。


そんなカズを後目に僕らは目を合わせて笑った。