「もう一緒に野球はできない。」

ニノにそう言われた。


「もう野球はやめた方がいい。」

お医者さんにそう言われた。



一度にそんな事言われてもどうしたらいいかわかんない。

誰か…。助けて…。


会いたい。
しょおくんに会いたい。


そう思った時にはもう自分ち屋根を飛び越えていた。





小さい頃から風邪を引きやすかった。
決まって咳が出る。乾いた咳。
でも風邪さえ治ればその咳も治まった。

甘くみてた。
喘息はそう簡単に治らない。
小さい頃から薬を飲み続けてきたから、よくなってくると信じてた。

けど、そうやって誤魔化してきた僕の身体はもう限界を迎えたらしい。


筋力の付きにくい身体に、日差しに弱い肌。
グラウンドの砂埃、野外での天候の変化。

野球は僕には合わないものだったもしれないけど、それでも好きだった。
やめたいなんて思わなかった。


でも、それよりも、もっと環境のいい場所に引っ越そうかと言われた時、

『しょおくんと離れたくない。』

そう思った。


隣に居られないなら野球だってやめる。
大人しくしてるから、僕としょおくんを離さないで…。


僕は気づいてた。

ずっとしょおくんに恋していたことに。






雨が続く。お決まりのように体調を崩す。

ニノがいないチーム。
後輩は慕ってくれるけど、僕は片割れを失い気力も体力もない。

休んでなんかいられないのに…。


壁に貼った甲子園の文字。
しょおくんが書いてくれた『夢』を追えない自分が情けなくて涙が伝う。



「おーい、じゅーん!大丈夫かー?」
ドアの向こうからしょおくんの声。


反則。

超絶弱ってる時に来るなんて。
もう隠せないよ。

しょおくんに全てを話そう。





「えっ…。」

「僕はもう野球ができないんだ。
だから、もう、甲子園目指せない…。」

「それよりも、お前の身体は?大丈夫なのかよ。」

「激しい運動をしなければ大丈夫だよ。
ごめんね、黙ってて。
僕さ、ずっとしょおくんを追いかけていきたかった…。
同じように夢…、追いたかった…。ごめ…っ、」

あの日のようにしょおくんは優しく優しく横たわる僕の髪を撫でた。


「バカっ!
んなことはいいんだよ!
夢も大事だけど、お前がそんなんじゃ意味ないだろ。
まだこの夏まではできるんだろ?
それまで頑張れ。
俺がいるから、頑張れ。」

嬉しくて、大好きな想いも止まらなくなって、涙が溢れる。


大好きだよ、しょおくん…。


「しょおくん、見てて。僕の最後の夏。」

しょおくんは僕の手を強く握って、パワーをくれた。





最後の打席。

バッターボックス。

打ち上がった打球。


僕は前だけを見て走った…。





つづく