「な、な、なぁーー!!」
「ちょっと!カズ兄!
声っ!声!!」
天使がオレの口を慌てて塞ぐ。
周りの視線が痛い。
オレとしたことが、取り乱した。
「ね、ねぇ…、こっち見てるよ。
カズ兄が大きい声出すから。
恥ずかしい…!」
あぁ?と顔を上げると、さっきのイケメン君とその友達であろうフツメン達がこちらを見ていた。
天使は真っ赤な顔を両手で隠すように覆う。
マズい…、こんな公共の場で天使の激カワな顔を晒してなるものか。
「潤、こっち!」
手を引き、急いで隣の車両に移動する。
幸い次は天使の降りる駅だ。
「落ち着け!顔を上げるな!」
天使の頭を強引に引き寄せ、腕の中に収める。
「落ち着いてはカズ兄だよぉ…。
絶対変に思われた。
もう、合わせる顔がないよ…。」
半泣きの天使。
その瞳はいつもより水分が多い。
上からの上目遣いってどうやんの?それ?
オレより背が高いってのは扱いにくいな!
「いいじゃん。もう顔合わせる必要なくなって。」
「ひっどー!
僕の初恋なのにー!」
プクッとほっぺたを膨らませて…
怒ってるつもりかよ。
「ほら、とにかくこの話はまた帰ってからな。」
「はーい。」
駅に着くと天使はひらひらとこちらに手を振って人混みに消えていった。
「あぶねぇな、前向いて歩けって…。」
可愛すぎるってのも罪だよな…。
『カズくん、潤って言うの。
あなたの弟よ。』
『じゅん…。おにいちゃんだよ。』
18年間、天使を独り占めしてきた。
兄として生まれた俺への罰か。
天使を見守るっつーのは大変だ。
オレの気も知らないで。
勝手に恋なんてすんなよな。