トントントントン…
心地よいリズム。
あぁ、これが世に言う男性が夢見る包丁の音で目が覚めるってやつか。
客間の襖を開けると、窓から差し込む朝日に照らされた潤くんの姿が。
エプロンをして、朝食を作っているのだろう。
鍋からオタマですくい味見かな?
「うん、おいしっ!」
クスッ!独り言…おっきい…。
思わず笑ってしまい、彼に気づかれてしまった。
「あ、さくらいさん。
おはよぉございます。」
オタマを持って振り返りながら、こっちを見る。
あぁ、残念。
もう少し見ていたかったな…なんて。
「おはよう。
いつもありがとう。」
そう言って頭をポンポンてすると、また嬉しそうに笑う。
その笑顔が見たくて、毎朝の儀式になりつつある。
なぜ年頃の彼がここにいるのか。
歳は?学校は?親は?
そんな立ち入ったこと聞けない。
初対面だし、長くここにいるわけでもないし。
初めて泊まった日の夜に、潤くんのおばあさんから聞いてわかったこともある。
彼は幼く見えるが、18だということ。
足の悪いおばあさんの代わりにすべての家事を行っていること。
親は…もうこの世にいないこと。
そして、この地から決して離れようとしないこと。
「いっただきまーす!」
彼の作るご飯は純和風。
ご飯にみそ汁、焼き魚…。
とにかくうまい。
いつもまともに朝ご飯なんて食べてない生活だから、なんて贅沢な朝ご飯だろう。
「どお?口に合うかな?」
「「合う!!」」
思わず声が揃う。
横を見ればマネージャーもバクバクとご飯をかき込んでる。
すっかり胃袋を掴まれてるじゃん…。
俺もか…。
「ごちそうさま。」
流しにいる潤くんへ声を掛けながら、食器を片付ける。
お世話になってるんだから、少しは手伝わないと。
彼に近づく。
ふわっと甘い香り。
この家に来た時にも感じた香り。
潤くんの匂いだったんだ。
香水でも洗剤でもない。
君の香り。