ミアグレースクリニック新潟 培養部です。

 

今回の卵子学会に参加して、男性不妊に関する演題で、興味深い内容があったので報告します。

精子の選別という観点からの先進医療(IMSI、PICSI、Zymot)、とTESE・MESAについてです。

 

※1.IMSIとZymot について

私はIMSI(高拡大視野での精子選別) と Zymot(マイクロ流体技術を用いた精子選:MFSS)を使用した治療に関わったことがあります。

私自身はそれらの所感について、一定の効果はあるのかもしれませんが成績を劇的に改善するような効果をあまり感じていませんでした。(決して、この技術を否定しているわけではありません。あくまで個人の見解です)

実際、IMSIは胚盤胞発生率や流産率の改善に寄与する、という報告が一部にあるようです。ただ、適応症例以外も含まれていてランダムに比較した場合には、出産率は有意差が出るほど改善したとわけではないとの報告もあり、適応は絞るべきとありました。Zymotについても従来法に比べ流産率がやや改善がみられるが有意差は認めないとの報告があるようです。

 

※2.TESE、MESA で回収された精子について

TESE(精巣内精子採取術)やMESA(精巣上体穿刺)で得られた精子が射出精子よりもSDF(DNA損傷率)が低く培養成績が良好という結果の報告がありました。理由としては精子が射出されるまでの間に酸化ストレスを受けてくることが考えられるようです。

 

※3.私の個人的な疑問、、、 良好精子を得るために精巣内精子回収術はあり?

TESEを施行する基準について意見が分かれるともありました。

無精子症であれば、当然TESEは選択肢になります。しかし、「なかなか良好胚盤胞ができないからTESEで精子を回収してみる」とか「射出精子のDNA損傷率が高いからTESEで精子を回収してみる」などという選択肢が有効なのかどうかは結論が出ていないのでないかと思います。今後の検討課題ではないでしょうか?

当院ではTESEを多数経験していますが、患者様の手術時の身体的負担は決して小さくはないです。安易なTESEは慎まれるべきでしょう。

 

※4.精子に関する先進医療や精巣内精子回収術について改めて思うこと

私は、患者様によって治療背景は異なりますし、「治療法に絶対というものはない」と考えています。

少ない治療回数で妊娠出産まで至ればそれに越したことはありません。症例により有効な技術を適切に実施することが、患者様の身体的、経済的負担を少なくするのだと思います。

先述したような技術については、患者様に対する伝え方次第では逆に動揺を与える可能性もあります。

治療技術の提示の際には、正確な知識が必須であり、まだまだ議論の余地のある治療法をあたかも「有効性が確立されている」かのように説明し、患者様に過度な期待を持たせることはあってはならないと思います。

私自身も患者様に説明する際には注意を要することを改めて感じさせられた学会でした。