ミアグレースクリニック新潟 培養部です。

 

本日は、胚培養液について記載したいと思います。


体外受精を行う場合、卵子と精子は体外で受精させたり培養を行ったりしますが、「培養液」と呼ばれる特殊な溶液中ですべての作業が行われます。この培養液は、100年以上の歴史の中で紆余曲折を経て開発されてできており、現在も常により良い培養環境を目指し研究が進められています。
哺乳動物用の培養液の黎明期は、リンパ液や血漿などの天然物を主体としていたそうです。その後、天然物は使用されなくなり、単純な組成の生理的塩類溶液にさまざまな成分を加えていき、胚発生が可能な成分や条件を探しだすという方法で、数々の合成培地が誕生しました。しかし、2細胞期や4細胞期など特定のステージで体外発生が停止する問題が起こります。そこで視点を変え、卵管液や子宮液を解析し、培養液組成に反映させる取り組みや、統計学的手法で培養液組成を最適化する取り組みが行われました。これが1990年代のことです。結果、体内に近い環境での培養が実現しました。
先人の恩恵を受け、現在では採卵後から胚盤胞までの5~7日間の培養が可能になっています。臨床現場では、メーカーが開発し、きちんと品質が保障されている培養液を目的ごとに選択し使用しています。最近では、培養液に生殖器内に存在する成長因子などこれまでにない成分を添加することで胚盤胞達成率や妊娠率を向上させるような培養液の開発が進んでいます。
と、培養液の歴史を紹介してきましたが、私自身は、大学時代の思い出がよみがえってきます。私はある野生ネズミの体外培養(人工繁殖)を目指した実験をほんの少し行っていました。そのネズミは、体外で受精はしても、その後どうしても2細胞で成長が止まってしまいます。それをどうしたら4細胞以降まで発生させることができるのか、という実験でした。学生実験なので、実験に用いる培養液はすべて手作りして使っていました。超純水に何種類もの試薬(粉状や液状のもの)を秤で計り加えていく、、、という作業で、3種類作るのに早くても3時間ほどかかった記憶があります。またカビが生えやすく、使用期限は1週間だったため何度も作っていました。結果は全くうまくいきませんでしたが、今から振り返れば、開発初期のような培養液作成過程を体験できたことはためになったと思っています。