MGCN培養部です。先日、2024年の臨床エンブリオロジスト学会に参加してきました。

興味深いテーマがありましたのでご報告します。

 

「精子DNA損傷と卵子DNA修復機構 について」のテーマとなります。


この講演では、精子DNA損傷を引き起こす主な原因と卵子の修復機構について、基礎研究の方面からのわかりやすい解説がありました。
そもそも、DNAとは、遺伝子の本体となる物質で、2本鎖に4種類の物質(塩基)が長く連なり、らせん状になっています。卵や精子の持つこのDNAは何らかの原因で、損傷が起きる場合があります。特に精子のDNA損傷量は妊娠効率や流産率と関連すると考えられているので、どうにかしてDNA損傷を修復しなければなりません。
ただ、精子自身はそのしくみを持っていません。一方、卵には体細胞がもつほぼすべてのDNA修復因子があることがわかっているので、精子ゲノム由来のDNAに損傷が発生した場合にも、DNAを適切に修復することができます。つまり、精子は卵にDNA損傷を修復してもらうのです。
 精子DNA損傷を引き起こす原因としては、活性酸素種、複製エラー、紫外線、放射線の4つが紹介されていました。活性酸素種はよって塩基が損傷をうけると、DNAの塩基の一部がなくなったり一本鎖の切断を生じたりします。複製エラーによって塩基の組み合わせに誤りが生じ、紫外線によって2本鎖の構造が崩れる場合もあります。放射線にさらされることによって2本鎖に切断が発生する場合もあります。卵子は、この4つに対して全く別の修復機構を用いることで適切にDNAを修復しています。
 近年のマウスでの実験では、精子が持ち込んだ酸化DNAの修復を行う遺伝子を欠損したマウスは、DNA修復機構が働かず、受精卵の正常な発生ができなかったそうです。このため、結果的に生まれてくる子マウスの数が少なくなったと話がありました。
このように、精子のDNAに損傷が発生しても卵の修復能力により損傷が元通りになる場合もありますが、損傷の程度や修復能力などによっては元には戻せない場合もあるようです。元の精子のDNA損傷が少ない方がいいに越したことはありません。ちなみに、喫煙によって精子数が減るだけではなく、精子DNAを損傷させてしまうと言われているので、禁煙も妊活の第一歩と言えると考えています。