小説『AKB48バトル選抜β』

小説『AKB48バトル選抜β』

『AKB48バトル選抜β』という小説を書かせていただいています。実は同じような小説を書かれている方を拝見し、インスピレーションを刺激されて、この小説が生まれました。「β」を冠しているのは、その方へのリスペクトを込めさせていただきました。

Amebaでブログを始めよう!
小説『AKB48バトル選抜β』-is.jpg

名前:岩佐美咲

能力名:津軽海峡冬景色
読み方:キリングナックル

内容:演歌歌唱時のみ、ただの拳撃が一撃必殺の攻撃となる。

対峙した人物が誰だろうと、いくら体力があろうと、一撃で脱落へと追い込むことができる。

ただ使用条件の縛りが強すぎるため、能力を活用しにくいのが難点か。

しかしうまく「拳をきかせる」ことができれば、上位攻略もありえる。

小説『AKB48バトル選抜β』-is.jpg

名前:片山陽加

能力名:純情主義
読み方:ハイスピードターン

内容:高速で移動することができる。

ただ速いだけだと侮ることなかれ。

いかに強い能力を持っていようが、相手に当てられなければ、意味は為さない。

ましてや、相手を見つけることさえできなければ、敗北は必至。

その足で、どこまでかき乱すことができるか。


木々の間を駆ける片山は、人影を自身の目にとらえていた。

(誰かいる!
あれは…誰?ううん、誰かなんて関係ない。)

(私のこの能力でやれることはただ一つ。

先手必勝!!)


片山は自身の能力を用い、相手の背後に回り込もうとする。

相手の左側から接近した形であるため、自分は僅かに右へ進路を変える。

途端、相手がこちらに顔の向きを変えた。

(気付かれた!?
でも関係ない!
私の能力を使えばこの距離、コンマ数秒で事足りる!!)


片山は強引に加速し、相手の背後に到着し、そこから腕を十字に組む形で首を締めあげる。


直後、置いてきぼりにした思考が回転を始める。


(さっきこっち振り向いた顔…
もしかして?)


片山が今自分が締めあげている人物に思い当たった瞬間。
締めあげているはずの「人」が姿を変える。

物言わぬ木に。
人とは違う、無機質なものへと変わったことを腕の触角で認識する。

(え、なんで?
見間違えた?

いや、そんなことない!
いや、そんなことより…)


そして、思考を回すそんな片山の首に対し、ひやりとした感触のものが当てられた。


「誰!?
いきなり襲ってくるなんて…ずいぶ」

「ゆきりん?」

片山は柏木由紀が全てを話し終わる前に、思い浮かぶ顔に対し、声をあげる。

振り向いて話し掛けなかったのは、首に伝わる感触に油断はできない状況であったからだ。

もちろん両手を頭上に挙げることも忘れない。


「はーちゃん?」

「うん。

あっちょっと待って、
私、ゆきりんを倒そうだなんて、考えてない。
始まって早々に人に出会ったから、舞い上がってつい攻撃しちゃったけど、ゆきりんなら」


「大丈夫だよ。」

今度は柏木が片山の声を遮るように言葉を発する。


「わかってる。」


柏木はこの発言を終えると共に、相手の首に当てていた枝を下げていた。

片山は振り返り、柏木が枝を持つ右手に目をやる。
枝だったのか、と片山は少し驚くと同時に、尻餅をついてしまった。

確かにこの辺りは幹の表面がつるつるとした、針葉樹が占める森林地帯だ。

同様につるつるとした枝を、緊迫した場面で感触のみで枝だと即座に見抜くのは困難ではある。


「もうー!
はーちゃんったら、尻餅なんてついちゃってー。」

「だって、怖かったんだもん!」


ふふ、と笑いながら、柏木は片山に立ち上がるための手を差し伸べる。

その手を取り、立ち上がった片山へと、質問を投げ掛ける。


「それはそうと!
はーちゃんがすごく速かったのって能力?
びっくりして、思わず私も能力使っちゃったよー!」


「私は、高速移動の力なの。
ゆきりんこそ、一瞬で木に変わったりして!
そっちこそ能力なんでしょ?」


「うん。
でもまぁ、能力を発動させる条件が厳しくて。
それがちょっと厄介なんだけどねー。

あ、とりあえず移動しない?
ここに立ったまま話すってのも危険だし。」

「うん、そうだね。」


こうして、即席にしては固い絆で結ばれたコンビが結成された。

2人は同期であるし、旧チームBで苦楽を共にしあの伝説の「初日」を迎えた仲間だ。

世間が知る以上に、2人の関係は深い。

そして、片や身体増強系の能力を有す片山、片や特殊系の能力を有す柏木が組むことになったのは、互いにとって必ずやプラスになるだろう。


一方、2人の怪物は胎動を始める。


その1人、大島優子。
彼女は自身のポテンシャルにそぐう、身体増強系最強の能力を手に入れていた。


その能力で強化した視力で辺りを見渡し、戦う相手を探す。


そこに運悪く見つかった者、岩佐美咲。

彼女は、決して弱小能力保持者ではない。

むしろまだ皆が能力を使いこなせていない序盤では、大島を倒しうる数少ない人物だろう。

ただ、その可能性を塗り潰すほどに、大島の身体能力、判断能力は凌駕していた。


大島は片山に負けず劣らずの速度で岩佐へと近付く。


それに気付いた岩佐は、大いに慌てふためく。

(優子さん!?
まさか優子さんが私に向かってきてる!?
まずい、能力を)


大島のぎらついた視線からはとてもじゃないが、非好戦的だとは思えない。
岩佐は即座に能力発動へと行動を開始する。


「上野発の夜行列車おりた時からぁ、」

しかし大島はやすやすと追撃を許さない。

加速したスピードそのままで、拳を思い切り振りかぶり、岩佐の腹部へと打ち込む。

その衝撃を受け止めてくれるものは、今2人がいる草原には無い。


10mほど吹き飛ばされた岩佐は、地面に強く体を打ち付ける。
途端、口の中に鉄の味、否、血の味が広まる。


気付けば足の先から順に半透明になってきていた。


「はぁ、もうリタイアか…。」

「ごめんね、わさみん。」


いつの間にか自分のそばまで歩みを進めてきていた大島が、自身の独り言に応えたことに気付き、岩佐は顔を上げる。


「別にいいですよ。」

「…へ?」


「だって優子さん、優勝してくれるんですよね?
それなら私は報われる。」


「…もちろん。
端からそれしか狙ってないよ。」


「そうですか。ならいいです。」


岩佐は微笑む。
口の端から血が流れているが、それをも含め、美しいと大島は感じた。


そして満足そうに微笑みながら消えた岩佐を見送り、大島は一人、呟く。


「後輩にプレッシャーかけられちゃったなー。
まったく…。」


そして一瞬眉を八の字にした大島は眉を戻し、口元に笑みを浮かべ、また歩を進め始める。


「さーて、次は誰かなー。」

その後ろ姿は、誰もが恐れるあの「優子先輩」そのものに見えた。


【岩佐美咲 脱落】
【残り 47人】