【能力解説:3】岩佐美咲名前:岩佐美咲能力名:津軽海峡冬景色読み方:キリングナックル内容:演歌歌唱時のみ、ただの拳撃が一撃必殺の攻撃となる。対峙した人物が誰だろうと、いくら体力があろうと、一撃で脱落へと追い込むことができる。ただ使用条件の縛りが強すぎるため、能力を活用しにくいのが難点か。しかしうまく「拳をきかせる」ことができれば、上位攻略もありえる。
【能力解説:2】片山陽加名前:片山陽加能力名:純情主義読み方:ハイスピードターン内容:高速で移動することができる。ただ速いだけだと侮ることなかれ。いかに強い能力を持っていようが、相手に当てられなければ、意味は為さない。ましてや、相手を見つけることさえできなければ、敗北は必至。その足で、どこまでかき乱すことができるか。
【第5章】私は報われる木々の間を駆ける片山は、人影を自身の目にとらえていた。(誰かいる!あれは…誰?ううん、誰かなんて関係ない。)(私のこの能力でやれることはただ一つ。先手必勝!!)片山は自身の能力を用い、相手の背後に回り込もうとする。相手の左側から接近した形であるため、自分は僅かに右へ進路を変える。途端、相手がこちらに顔の向きを変えた。(気付かれた!?でも関係ない!私の能力を使えばこの距離、コンマ数秒で事足りる!!)片山は強引に加速し、相手の背後に到着し、そこから腕を十字に組む形で首を締めあげる。直後、置いてきぼりにした思考が回転を始める。(さっきこっち振り向いた顔…もしかして?)片山が今自分が締めあげている人物に思い当たった瞬間。締めあげているはずの「人」が姿を変える。物言わぬ木に。人とは違う、無機質なものへと変わったことを腕の触角で認識する。(え、なんで?見間違えた?いや、そんなことない!いや、そんなことより…)そして、思考を回すそんな片山の首に対し、ひやりとした感触のものが当てられた。「誰!?いきなり襲ってくるなんて…ずいぶ」「ゆきりん?」片山は柏木由紀が全てを話し終わる前に、思い浮かぶ顔に対し、声をあげる。振り向いて話し掛けなかったのは、首に伝わる感触に油断はできない状況であったからだ。もちろん両手を頭上に挙げることも忘れない。「はーちゃん?」「うん。あっちょっと待って、私、ゆきりんを倒そうだなんて、考えてない。始まって早々に人に出会ったから、舞い上がってつい攻撃しちゃったけど、ゆきりんなら」「大丈夫だよ。」今度は柏木が片山の声を遮るように言葉を発する。「わかってる。」柏木はこの発言を終えると共に、相手の首に当てていた枝を下げていた。片山は振り返り、柏木が枝を持つ右手に目をやる。枝だったのか、と片山は少し驚くと同時に、尻餅をついてしまった。確かにこの辺りは幹の表面がつるつるとした、針葉樹が占める森林地帯だ。同様につるつるとした枝を、緊迫した場面で感触のみで枝だと即座に見抜くのは困難ではある。「もうー!はーちゃんったら、尻餅なんてついちゃってー。」「だって、怖かったんだもん!」ふふ、と笑いながら、柏木は片山に立ち上がるための手を差し伸べる。その手を取り、立ち上がった片山へと、質問を投げ掛ける。「それはそうと!はーちゃんがすごく速かったのって能力?びっくりして、思わず私も能力使っちゃったよー!」「私は、高速移動の力なの。ゆきりんこそ、一瞬で木に変わったりして!そっちこそ能力なんでしょ?」「うん。でもまぁ、能力を発動させる条件が厳しくて。それがちょっと厄介なんだけどねー。あ、とりあえず移動しない?ここに立ったまま話すってのも危険だし。」「うん、そうだね。」こうして、即席にしては固い絆で結ばれたコンビが結成された。2人は同期であるし、旧チームBで苦楽を共にしあの伝説の「初日」を迎えた仲間だ。世間が知る以上に、2人の関係は深い。そして、片や身体増強系の能力を有す片山、片や特殊系の能力を有す柏木が組むことになったのは、互いにとって必ずやプラスになるだろう。一方、2人の怪物は胎動を始める。その1人、大島優子。彼女は自身のポテンシャルにそぐう、身体増強系最強の能力を手に入れていた。その能力で強化した視力で辺りを見渡し、戦う相手を探す。そこに運悪く見つかった者、岩佐美咲。彼女は、決して弱小能力保持者ではない。むしろまだ皆が能力を使いこなせていない序盤では、大島を倒しうる数少ない人物だろう。ただ、その可能性を塗り潰すほどに、大島の身体能力、判断能力は凌駕していた。大島は片山に負けず劣らずの速度で岩佐へと近付く。それに気付いた岩佐は、大いに慌てふためく。(優子さん!?まさか優子さんが私に向かってきてる!?まずい、能力を)大島のぎらついた視線からはとてもじゃないが、非好戦的だとは思えない。岩佐は即座に能力発動へと行動を開始する。「上野発の夜行列車おりた時からぁ、」しかし大島はやすやすと追撃を許さない。加速したスピードそのままで、拳を思い切り振りかぶり、岩佐の腹部へと打ち込む。その衝撃を受け止めてくれるものは、今2人がいる草原には無い。10mほど吹き飛ばされた岩佐は、地面に強く体を打ち付ける。途端、口の中に鉄の味、否、血の味が広まる。気付けば足の先から順に半透明になってきていた。「はぁ、もうリタイアか…。」「ごめんね、わさみん。」いつの間にか自分のそばまで歩みを進めてきていた大島が、自身の独り言に応えたことに気付き、岩佐は顔を上げる。「別にいいですよ。」「…へ?」「だって優子さん、優勝してくれるんですよね?それなら私は報われる。」「…もちろん。端からそれしか狙ってないよ。」「そうですか。ならいいです。」岩佐は微笑む。口の端から血が流れているが、それをも含め、美しいと大島は感じた。そして満足そうに微笑みながら消えた岩佐を見送り、大島は一人、呟く。「後輩にプレッシャーかけられちゃったなー。まったく…。」そして一瞬眉を八の字にした大島は眉を戻し、口元に笑みを浮かべ、また歩を進め始める。「さーて、次は誰かなー。」その後ろ姿は、誰もが恐れるあの「優子先輩」そのものに見えた。【岩佐美咲 脱落】【残り 47人】