春の夜

燻銀(いぶしぎん)なる窓枠の中になごやかに

一枝(ひとえだ)の花、桃色の花。

月光うけて失神し

庭の土面(つちも)は附黒子(つけぼくろ)。

ああこともなしこともなし

樹々(きぎ)よはにかみ立ちまわれ。

このすずろなる物の音(ね)に

希望はあらず、さてはまた、懺悔(ざんげ)もあらず。

山虔(やまつつま)しき木工(こだくみ)のみ、

夢の裡(うち)なる隊商(たいしょう)の

その足竝(あしなみ)もほのみゆれ。

窓の中にはさわやかの、おぼろかの

砂の色せる絹衣(きぬごろも)。

かびろき胸のピアノ鳴り

祖先はあらず、親も消(け)ぬ。

埋(うず)みし犬の何処(いずく)にか、

蕃紅花色(さふらんいろ)に湧(わ)きいずる

春の夜や。

中原中也『山羊の歌』より

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いぶし銀のような色の窓枠の中に、一本の桃色の花が見えました。

あれは桜でしょうか、それとも、桃の花でしょうか。

私は、桃と思いました。それは桜にも似た一重の。

今日もいちりんあなたにどうぞ。

ハナモモ 花言葉「私はあなたの虜」

花、核果の木、自然の画像のようです

~花以想の記~