『赤鼻とセイント・ミルクティ』フライングゲットな番外編
::赤鼻とアケオメ・ミルクティ
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「のりくん。お願い事をする前に、去年はありがとうございましたって神様にちゃんとお礼言ってね」
新年を迎えた朝、ふたりで初詣でに訪れた小さな神社の本堂前にて。
今まさに賽銭箱に500円玉を投げ入れようとしていたとき、胡桃さんがいきなりそんなことを言ってきた。
え、あ、はい、なんて間の抜けた返事をした俺に、彼女は桃色に染まった頬をぷう、と膨らませてみせる。
「む、今アホらしいって思ったでしょ」
「お、思ってませんよ」
「お礼もなしに願い事ばかり聞いてたら、神様だって疲れちゃうんだよ?」
胡桃さんが放り投げた賽銭が、チャリンと音を響かせて。
その余韻を辿りながら、目を閉じて本堂に手を合わせる彼女の横顔を眺めていると、不思議と和やかな気持ちになってきて。
(……かわいいなあ)
疲れちゃう、って。
優しい。胡桃さんは誰にでも、たとえ神様にだって。
かわいい。愛おしい。
俺の肩より低い身長も、寒いと赤くなる鼻先も、無邪気な笑顔も、ぜんぶ、ぜんぶ。
――ずっと、こうしていられたらいいのに。
いつまで一緒に働けるだろう。……そんなことを考えながら、俺も賽銭を投げて手を合わせる。
(神様、去年はどうもありがとうございました)
そして願わくば。
願わくば、――
*
「胡桃さんは、神様に何をお願いしたんですか?」
帰り際に、ふたりでおみくじを引いて。
幾重にも折り畳まれたそれを、かじかんだ指で少しずつ広げていけば、
「ふふ、ひみつー。……あっ、わたし大吉だ! のりくんは?」
にこにこと楽しげに微笑む胡桃さんの首に巻かれた、ミルクティ色のやわらかなマフラーの裾が、ふわりと揺れた。
(……あ、)
思わず頬を緩めた俺の顔を、胡桃さんは首を傾げて見上げてくる。
「どうだった? 大吉?」
「んー、ひみつです」
ええー! と大袈裟に声を上げる彼女。俺は笑った。
ひみつだよ。今はまだ。
願い事が叶うまでは。
だからそれまで待ってて。
いつか俺の口からちゃんと言うから、待っててください、胡桃さん。
ーENDー