松谷みよこさんの「ふたりのイーダ」を

高校生のときに読んで衝撃を受けた。

 

 

終わっている戦争を取り扱いながら、

「まだ終わっていない戦争の悲劇」を

あぶり出していくのだけど、

そこには小さな少女と、

少年のまなざしがあり、

それを追いかけるように物語に引き込まれていくのだ。

 

 

 

「直樹とゆうこの物語」にはいくつかの続きがある。

たとえば「屋根裏部屋の秘密」。

秘密とタイトルにつくとドキドキするが、

ここで導き出される秘密は

日本軍がひた隠しにしたかった731部隊だったりして。

かなり難しい問題を取り扱っている。

 

そんなシリーズのなかで、

わたしを動かしたものがある。

 

 

 

わたしはこの本の主人公、

ゆうこを真似た。

いや、正確にはアンネを真似たゆうこを真似た。

 

ひまだったんだろう。

 

 

 

「わたしの名前はアンネ・フランク

ドイツ生まれのオランダ在住ユダヤ人」

 

少女マンガのプロローグ風に例えると、

アンネの日記はこんなふうに始まった。

13歳のおしゃべりブログだ。

 

 

アンネが架空の相手に日記を書いたように、

「時代も国も違う子に向かって日記を書く」のが

自分の決めたミッション。

さらにそれを難しくするマイルールを定めた。

 

 

1自分が日本人だとは言わない

(日本はドイツと同盟関係でしたからね)

 

2未来のひと。と明かすだけにとどめて、

決して戦争がどう終結したか話さない。

アンネのたどる未来を知らないフリをする。

あくまで潜伏中の彼女に話しかけるつもりで!

 

 

 

軌道に乗ると、この日記は楽しかった。

ネタを探して新聞を読むようになったくらいだから、

どれだけ熱中していたかわかるだろう。

 

ある日「オランダ領の島に日本軍が攻め入り、

そこに暮らしていた市民を苦しめた」という記事を発見した。

鎖国をしていた間もオランダとは国交があったので、

なんとなくオランダは馴染み深い国と思っていたが、

オランダ人のほうはこの侵略の記憶から、

いまだに反日感情があるらしい。

ショックだ。

 

 

アンネフランクとの交流で、

わたしはそれまでより知覚を広げ、

考える様々なきっかけを得たと思っている。

それこそ10年でも日記を書き続けられると思われた。

 

 

けれどそれは終わりを迎える。

 

アンネがどんな未来をたどるのか、

アウシュビッツがどんな場所か。

シオニストがつくった国がどうなっているのか。

そこを「知らないフリ」することが苦しくなっていった。

 

思春期の楽しい生活を失って、

それでも人は善だと信じている彼女に対して、

無邪気に話しかける時間は終わった。

 

 

あのころのパッションは

どこにいってしまったんだろう。

けれど貴重な体験だったことに間違いはないし、

 

 

いまでもアンネは、大切な友人だ。