みなさん、おばんです。

 

 『叫んでないムンクの叫び』を海面に見たカマちゃんは心臓が止まるほどビックリ仰天しましたが、ソレを表情に出せないほど衰弱しており、ダイオウイカのヌルヌルした胴体に顔面をベッタリ押し付けた状態で、背中をくの字に折り曲げて動かなくなりました。

 

 カマちゃんの身体にパラサイトしていたレラ・サンは、カマちゃんの身体の異変に気付き、慌てて胃から口へと移動しましたが、口はダイオウイカに塞がれており、脱出できません。

 

 起きて!鎌田ミノル!わたしを助ける夢を見なさい!

 

 レラ・サンは必死になってカマちゃんに呼びかけますが、反応がありません。

 

 やばい。見誤った。人間がこんなに弱い生き物だとは。ヒトデやイカはこんなにも元気なのに、何故、人間だけが、弱るの?どうして?

 

 アルアル・トンプソンは、ぐったりして動かなくなったカマちゃんにソロリソロリ近づいて死期が近いことを感知しました。カマちゃんをオキナワに連れて行く夢が、何かに浸食されてゆきます。目の前の相手が、徐々に、それまでとは違う対象になってゆきます。航海師という役割を押し退けて、捕食者としての本能が目覚め出したのです。

 

アルアル「ヘイヘイヘイ!あんた大丈夫かい?大丈夫じゃねーか。どうすんだい。このまま、オキナワとやらに向かっていいのかい?」

 

 カマちゃんは、返事をしません。

 

アルアル「・・・死ぬんだろ?そうだろ?」

 

 カマちゃんの意識に、アルアル・トンプソンの声が、断片的に、意味を成さない音節として、ずいぶん遠くから聞こえます。

 

アルアル「・・・食っちゃうぞ。いいか?」

 

 カマちゃんの意識が、遠のきます。

 

アルアル「・・・約束は、守るよ。けど、オキナワに着く頃には、あんたは、もう、いないよ」

 

 カマちゃんの命が、尽きそうです。

 

 アルアル・トンプソンはカマちゃんの後頭部によじ登り、星型の真ん中にある口を大きく開き、自身の胃袋を吐き出しました。それをまるで風呂敷のように広げてゆき、カマちゃんの頭をすっぽり包み込んでしまいました。すると、間もなくして、カマちゃんの毛髪が溶けてゆきます。アルアルの胃の中で消化されてゆくのです。

 

 食べちゃダメ!アルアル・トンプソン!この男を生かしなさい!

 

 レラは自分の身にも危険が及ぶと判断し、アルアルに更なる暗示をかけました。しかしアルアルの野性がレラの暗示を拒みます。そのとき、カマちゃんの体がビクッと痙攣して、その反動で顔が浮いたのです。その一瞬を見逃さず、レラ・サンはカマちゃんの口から外へ飛び出ました。間髪入れずレラはアルアルの胃袋に跳ね上がりました。

 

 ビリビリビリビリ!と閃光が走り、アルアルの星型が焦げて、煙が立ち上りました。