みなさん、おばんです。

 

 カマちゃんことオカマの警備員(だった)鎌田ミノルは、カレー屋兼探偵業の、いや、探偵をやりながらカレー屋を営む(実はMI6諜報員で真の姿はムスリムのテロリスト)ジョン・ロトンに頼まれ(騙され)、原子力空母ロナルド・レーガンに家ごとラチられた『わたし』にプラスチック爆弾風カレーを届けに来たのが運の尽き、スーパーハイブリッド金魚のレラ・サンを飲み込んだまま、CIA諜報員のナイキに海へ叩き落されて、それから荒波を乗り越えるが如く幾多の困難を克服し、いまこうして、令和版太平洋ひとりぼっちの大航海をしているのでRX7。

 

 太平洋の漆黒の闇に音の出ない風鈴が如くポツネンと浮かび漂うカマちゃんこと鎌田ミノル。

 

 ハンマーヘッドシャークの群れに囲まれて、絶体絶命のピンチを救ってくれたのは、幸か不幸か、自身の見た目のマズさであったのだから複雑な心境なんであるが、九死に一生を得たのは良いものの、さて、これから太平洋にオカマがひとりぼっちで、これからどうしようかと途方に暮れているのです。不安と恐怖に襲われて、アタマがどうにかなりそうです。大きな声で叫んでみても、その声は水の底に吸い込まれ、自分の耳にさえ届かない感覚。絶対の孤独とは、こういうことをいうのでしょうか。いっそのことハンマーヘッドシャークに食われたほうがマシだったとか考えちゃうから人生って不思議です。シェイクスピアは知っていた。to be or not to be . どっちもダメじゃん。

 

 ああ、神様、彼が、いや、彼女が一体何をしたというのでしょうか。何故にこんなヒドイ仕打ちを受けなければならないのでしょう。何の落ち度も無い彼女、いや、彼にかような試練をお与えになるとは、ヒドイです神様、神様、ああ、神様・・・・。

 

 一方その頃、金魚のレラ・サンは海底まで潜り、光ファイバーケーブルに耳をあて、世界中の有ること無いことの情報を入手していました。目的はタダ一つ、愛するサーカスの行方を知る手がかりを得るためです。なるほど、世界は情報で溢れていました。情報が、世界です。世界という情報が、世界を成り立たせています。世界が消滅するとき、それは、情報が無くなるときです。情報とは、何か。となりの家で飼っている犬が飼い主をよく噛む、ということを知ることではありません。それを知っている自分自身が情報の総体の一部になること、つまり、情報自体に組み込まれることです。となりの家で飼っている犬が飼い主をよく噛むことを知るとなりの家に住むダレソレさんになること、つまり、その情報の、さらなる関連的情報になることです。それはともかく、レラは何か、サーカスの行方を探す手がかり、というかヒントになるものを得たようで、すっーと海上へと浮上してゆきます。このときついでに、深海に住まうダイオウイカをリクルートすることを忘れませんでした。

 

 やがて、カマちゃんは、眠くなりました。疲れました。水球選手も顔負けの立ち泳ぎも出来なくなりました。つまり、あきらめました。ぶくぶくぶくぶく・・・水の底へ底へとカマちゃんの身体はゆっくりと落ちて行きます。苦しい。呼吸がしたい、けど、もうその体力も無いのです。水を、受け入れるしかない。ドンドン体内に入ってくる海水に慣れると、苦しみからも解放されます。さよなら、世界、さよなら、自分・・・・と、ソコへするっと何かが海水と共に口の中に入り込みました。何だろう?もちろん、このとき正常な思考などできないのですが、朦朧とする意識の中で、カマちゃんは、夢を見ていました。何の夢か?そう、愛するジョン・ロトンと一緒にカレー屋を営む夢です。小さなカレー屋です。1坪ほどの、カウンターしかない店内の狭いキッチンで肌を触れ合わせながら、ジョンと2人、忙しく立ち働くのです。無理よ。出来ない。だって、死ぬんだもん。わたし。いいや。出来る。出来ない。出来る。出来ない。生きてれば、かなう。だって。だってもさってもない。さって?ソレはいいじゃん。夢を見なさい。鎌田ミノル!わたしを助ける夢を!どどーん!というわけで、またしても鎌田ミノルの体内に入り込んだレラ・サンはカマちゃんに夢を見させて意識を戻し、潜在能力を引き出して、カマちゃんに超人的な回復力をもたらしたのです。そうして鎌田ミノルは、レラがさきほどリクルートしたダイオウイカに羽交い絞めみたいに抱きかかえられて急浮上、核ロケット搭載の最新鋭の潜水艦ばりに海面上へ帰還したのです!

 

 ダイオウイカの上で仰向けになって荒々しく呼吸するカマちゃんの口から、間欠泉のように海水に乗ってレラ・サンが飛び出しました。

 

 カマちゃんの腹に不時着したレラはピチピチ跳ねながら、カマちゃんにこう命令しました。

 

 命が惜しくば、わたしの言うことを聞きなさい。わたしを、あなたの愛するジョン・ロトンの元へ連れて行って欲しいの。わたしには、やはり、人間の協力が必要なのよ。ジョンの居場所を、わたしは知っている。ナビゲートするから。いいえ。わたしが、じゃなくて、彼が、ね。

 

 彼?カマちゃんは荒い息を吐きながら、その彼を探しました。どこにも居ませんでした。傍らに目をやると、ヒトデを見つけました。赤黒い、星型の、ありきたりのヒトデです。

 

 ヘイヘイヘイ!いま、オイラのこと、ありきたりのヒトデ、だと思ったろう?見た目でヒトデを判断しちゃいけないぜ!見た目で判断できるのは、あくまでも人だけだぜ!いいかい?オイラの名前はアルアル・トンプソン。太平洋イチの、星の航海師だぜ!

 

 星の・・・仙一?

 

 カマちゃんはダイオウイカのヌルヌルした胴体の上で満天の星空を見上げました。

 

 

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