皆さん、おばんです。
 
ある日の午後、曇り空、国境沿いの街、アメリカ・サンディエゴ。
 
米原子力空母ロナルド・レーガン艦長クリストファー・ドリスの一人娘、アンジェラ・ドリス(通称アンジー)はボーイフレンドのデーモン・アブドゥルとコカインを吸引していた。トランプウォールに寄り掛かって。メキシコとアメリカを隔てる長大な壁の、灰色のコンクリートに押し付けた背中から全身の体温が奪われる。そうして自分が壁の一部になったような感覚に襲われる。
アンジーは怖くなって、けれど少し可笑しくて、視える?デーモン。わたし、ちゃんと視えてる?
視えてるよ。どうしたの?アンジー。眼が、おかしいの?視えないの?
視えてるわ。わたしは。コノ国の空とアノ国の空の境界が。だからね。もっと高い、高い壁を作らなきゃダメよ。乗り越えるわ。飛び越えてくるわ。この壁を。奴らをコノ国に入れちゃダメなのよ。
どうして?彼等がコノ国に来る理由は正当なものだよ。働き口を求めているんだよ。自国にソレが無いから仕方なくコノ国に来るんだよ。生きるためなんだよ。悪さをしようなんて考えを持ち込んで来たりはしないはずだよ。
何でそんなことがわかるの?皆が皆、良い人ばかりとは限らないわ。あなたの意見は、いくらか性善説により過ぎている。
そうかな?
そうよ。高い壁を築くのよ。空が見えなくなるほどの壁を。
 
 
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