皆さん、おばんです。



プロフェッチョナル~現場の流儀~2



運命 ― 逆らったらクビだって


それから、クレーン運転手になるべく資格を取得した彼は、運命に導かれるようにして入った会社で仕事を始めた。そこで、彼の才能はすぐさま開花した。彼の技術は業界で評判となり、会社に仕事の依頼が殺到する。そして、大きなプロジェクトの話が舞い込んだ。


立花「家をね、吊ってくれって言うんです。俺、出来ないですって断ったんです。やったことないから。鉄板しか吊ったことないし。そしたら社長は、3tぐらいのプレハブだから大丈夫だ、と。もし断ったらお前クビだよ、と。ここ辞めても、別のとこに行けばいいや、なんて考えてたら甘いよ。同じ仕事には就けないよ。狭い業界だから覚悟しろよ、と。それで、渋々、引き受けたんです。


夜、現場に行ったら、ビックリしました。家に、人がいたんです。ソレも、1人だけじゃない。4~5人ぐらい。カレーがどうのこうのって、叫び声まで聞こえる。ビビリました。本当に、このまま吊り上げていいのかって社長に聞いたら、『いいんだ。人なんか構わずそのまま吊り上げてトレーラーに載せろ』と。『そういう段取りつけてんだから』と。


そして社長は続けてこう言いました。


『俺達は元請に言われた通りすればいいんだ。何かあった場合の責任は向こうにあるんだ。元請けが悪いんだ』と。


それで、元請はどこからこんな仕事を請けたんだと聞いたら社長はお前がそんなこと知らなくていいし、知らないほうがいいみたいなことを言われて俺は面白くなかったけど、とにかく、クレーンで家を吊ってトレーラーに積めばソレで終わりなんだ、そうだ、俺の仕事は客の要望に沿うようにベストを尽くすことなんだって割り切りました。


作業には、かなり神経遣いましたね。なんつったって、中に人がいるんだもの。あんな仕事はもうコリゴリですね。


後で、先輩連中に話したら、断んなきゃダメだよって言われて。俺達は断ったよって。社長はハッタリかますからって。その社長も、元請からハッタリかまされて、その元請もきっと依頼主からハッタリかまされたんだろうって。この国は民主主義の法治国家なんだぜ。あんな仕事を押し付けて、脅すなんて、そんなことがまかりとおる世の中おかしいぜ。


それから、しばらくして、今回の仕事を断った別の会社は仕事が激減したって、特に公共工事関連の仕事が無くなったって話し聞いたけど、本当かな?」


プロフェッチョナルとは ― 


立花「無理しないことじゃないですか。出来ないことは出来ないって断った方がいいですよ。いや、仮に出来たとしても、ソレが自然じゃないなら、つまり、天にツバ吐くような行為なら止めといた方が無難だね。だからね、人が居る家を吊る仕事とか、無茶したなって反省してます。あのとき、何かあったらマズかったなって。細心の注意をはらって作業しても、何も無いとは言い切れない。人生、何があるかわからない。明日のことはわからない。死ぬかもしれない。神のみぞ知る。つまり誰もわからない・・・ていうふうに考えると、仕事なんて身過ぎ世過ぎのヒマつぶしだ。そんなものに命をかけるとかなんとか、ふざけた事言っちゃダメだよ。天職?アンタら、どんだけすごい仕事をしてるんだって言いたくなる。戦争行ったり、人殺しする仕事だって天職になるの?」


その後、番組製作に関わった内通者により、番組に重大な瑕疵があるとの情報が政権与党のメディア戦略担当者に伝わり、放送目前に事前チェックされた。番組を見た複数の議員から、番組の一部内容に特定秘密保護法に抵触する部分があり、又、国家の利益を損なう極めて不適切な内容だとの意見が出た。それから、放送局の幹部が政権与党に呼び出され、メディア調査会での事情聴取を経て、放送を取り止めるか、又は内容を大幅に変更するよう圧力を掛けられ、番組は、お蔵入りになった。



立花「俺が吊った家がどこに運ばれたか?知りません。知ってても、言いません。いいえ、言えません。口止めされてるから。誰に?だから、何も知らないです。知らないでいたほうが身のためだと言いくるめられてますから。けど、やっぱり、問題なのは、知らんぷりすることなんだ。そして、知ってるつもりでいることなんだ。知らない、聞いてない、では済まされないんだ。だから、俺、皆に言いたい。俺の仕事を知って欲しいって。他人の仕事に興味を持って欲しいって。皆、自分の仕事しか知らない。他人の仕事には興味ない。知ろうともしない。誰が、どんな条件で、どんな思いで働いているか。ソレを知っているのといないのとでは、世の中の見え方がだいぶ違うと思う」


トレーラーに積み込まれたプレハブの家は、ある港に運ばれ、またそこからクレーンで吊られて海に浮かべられた。


暗い海を後尾デッキから眺めていた乗組員は、波間に白い航跡を作る物体を見て最初こう思った。


「金魚のフンみたいだな」


そうです。わたしの閑居は米原子力空母ロナルド・レーガンに曳航されていたのです!


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