皆さん、おばんです。
~プロフェッチョナル 現場の流儀~
№ 59
『クレーン運転手・立花陽三』
彼の朝は早い。
夜空が白み始める前に起き、顔も洗わず、パジャマ姿のまま近所の公園に向かう。日課の太極拳をするためだ。
太極拳をすることで、その日の自分の体調の良し悪しがわかる。身体のコンディションが、仕事のデキを左右することを知っているのだ。もしも、体調がいつもと違うようなら、仕事を休むことをためらわない。完璧を求めるあまり他人と衝突することもしばしばある。しかし、彼には曲げられない信念がある。
信念 ― 曲げずにいたら折れちゃいそう
立花「ずっと、腰と背中と、それから首が痛くてね。ずっとクレーン車の運転台に座ってるでしょ。長時間、固定された姿勢でいると、身体がこわばって。ほんで、視線が上目線でしょ。上からじゃなく下からのね。吊り上げたモノをずっーと見上げてるから、首がおかしくなっちゃって。だから、『立花さんていっつもアゴ上げて、人を見下すように話しますよね』って言われるけど、違うの。誤解なの。首が戻らないの。たまに曲げてやったりしないと、そのうち首の骨が折れちゃうじゃないかって心配だよ」
転機 ― ハローワークで死にかける
ソレまで一度も足を踏み入れたことがない場所だった。意を決して、ソコへ向かったのは、理由がある。
彼を突き動かしたのは、失業率の実態の把握とその失業者の実情を知る為だった。そして、苦境にあえぐ中小企業の経営者に、一人でも多く会い、話しを聞くこと。それが、自分に与えられた使命だと思い込んだ。
立花「会社が倒産してですね。クリーニングの配達やってたんです。2tのゲート車乗って。ちょうど、仕事に嫌気差してたときで、こりゃ都合が良いなと思って。同じ仕事しようとは思わなかったですね。その会社は大手の下請けで、外国人実習生をタダ同然で働かせているようのところで。そうしないと利益出なかったのかな。クリーニング屋の下請けなんて、そんなもんですよ。そんで、ハローワーク通ったんです。通った、というより、失業手当の認定日に行くぐらいで、まともに仕事を探そうとは思わなかったです。だって、ハローワークに求人出してるとこって、全部ブラック企業ですよ。マジで。求人票の記載内容と実際のソレって全然違うんだから。全国規模のエステティックサロンの営業職で入ったつもりが、デリヘル嬢の送迎させられたり。マジで。俺じゃないですよ。聞いた話ですよ。
まあ、それで、その日も、パソコンで検索してたんです。してるフリね。30分ぐらいして、良いの無かった、とか言って帰ろうと思ってたら突然、後ろから大きな蚊だかハエだか鳥だかが『ブンっ』て飛んできて顔の横スレスレを通って、パソコンのモニターに直撃したんです。モニターの画面は粉々に砕け散って、俺は反射的にのけぞって、その拍子にイスから落ちて。何が起こったかさっぱりわからず、顔を上げると、モニターに突き刺さってたんです。バットが。松井秀喜モデルの。マジで。それで、ああ、松井ってここまでバット飛ばすんだー、やっぱゴジラはスゴイなー、とか思ってたら、ヒラヒラと一枚の紙キレが落ちてきたんです。俺の目の前に。求人票なんですけど。俺、こんなのプリントアウトしたかなーとか思って、とりあえず拾って見たら・・・その職種が、クレーン運転手だったんです」
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