皆さん、おばんです。



水脈は、どんどん、その幅を狭めていく。わたし達は、窮屈に、ヒレを折りながらどうにかこうにか、泳ぎ進んだ。いいえ。無理に泳がなくても、その流れに身を任せていれば良かった。わたし達の運命を予定通りに進めようとする得体の知れない何かに、その運命自体を引っ張られている感じがした。



だんだん、水が、生ぬるく感じてきた。そして、変な匂いが混じる。今まで、嗅いだことの無い匂いだ。嫌な匂い。まさに危険な匂いがする。泳ぎ進むにつれ、それが濃くなる。と同時に、冷たい水が混ざり込む。それが、徐々にその量を増して行く。やがて、わたしの左半身を温かい水が、右半身を冷たい水が浸すような感じになる。そして急にフユアキが、水脈の壁に反らした身体を擦るようにして、止まった。わたしとナツハルはつんのめり、フユアキの身体に自らの身体を押し付けるようにして、止まった。



レラ「急に止まらないでよ!」



フユアキ「ごめん。ホラ、見てごらん」



フユアキに促されて、彼の背ビレ越しに、わたしは二股に分かれる水脈を見た。左の水脈は温かい水の匂いがする方で、右の水脈は冷たい水が流れる方。



ナツハル「どうしたんだい?早く行こうよ。どっちでもいいよ」



フユアキ「どっちでもいい?よくそんなことが言えるね。君の、ぼくの、レラの、生きるか死ぬかの岐路に立たされているのだよ」



レラ「フユアキは、わかっているのでしょう?伝説の泉の行き先を。どっちに行けばいいのかを」



フユアキ「それがわからないから、こうして、止まって、皆の意見を聞こうとしているのじゃないか。さて、本当に、どっちへ進めばいいと思う?」



ナツハル「それを決めるのは、君なんだよ。さっきまでの自信はどこにいったんだよ。いいから決めろよ。君が決めた方に、ぼく等は行くよ」



フユアキ「本当に?うれしいね。レラもかい?」



レラ「うん。そう。決めて。お願い」



フユアキ「わかった。わかったよ。決めるよ。ぼくはこのためだけに生まれてきたんだよ。この向こうに泡立つ泡に乗って何処までも高く高く飛ぶために!」



そう言って、フユアキは、温かい水の方へ泳ぎだした。わたしは、すぐには彼の後についていかなかった。ナツハルに、確かめたいことがあったから。



レラ「ねえ。あなたは、フユアキとこれからも、一緒に旅を続けて行けると思う?」



ナツハル「当たり前だろう。これからも、ずっと彼と旅を続けていくつもりだよ。どうして?」



レラ「わかった。それだけを聞きたかったの。ありがとう」



わたしは、フユアキが向かったのとは別の水脈を選び、泳ぎ出した。冷たい水の流れる方へ。



ナツハル「レラ!何でそっちへ行くんだ!バカ!レラ・サン!戻って来い!」



水脈の細い空洞に入ったなら後戻りする事はできない。それを知った上での行動だった。わたしは、フユアキを裏切った。とは思わない。が、フユアキが見る夢は、わたしの見る夢ではない、とは思った。フユアキには、わたし達に構わず、遠慮せず、夢を叶えて欲しかった。



ナツハルは、冷たい水と温かい水との狭間で、わたしの名前を呼び続けた。しかしわたしは振り返らなかった。いいえ。振り返れなかった。身体自体が、そして時間が、後戻り出来ないのだから。


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