皆さん、おばんです。



フシギちゃんの左の翼を撃ち抜いた光は、バランスを崩し落下するフシギちゃんの右の翼をも撃ち抜いた。その衝撃で、わたしをくわえたヘビーチーはフシギちゃんから解放された。わたしはヘビーチーにくわえられたまま、真っ逆さまに地上へ落下していった。あの光の正体を謎に思う余裕もなく。



わたしは、わたしの落ちる先がどこであるか確認したかった。ソコは、硬い地面ではなく、できれば、緑のあるところ、願わくは水のあるところが望ましかった。しかし、おそらく、わたしが落下するところは、養殖池の外れの、アスファルト舗装された道路であるらしかった。その脇に用水路が流れているのがわかった。あそこに落ちたい。わたしは強く願った。誰か、お願い。わたしをあの用水路に落として!



しかし、もう、誰もわたしを助けてくれるものはいないのだ。虚しい願いだ。それでも、願わずにはいられない金魚の性を思い知って、わたしは生きている意味を問うた。生まれてきた意味を問うた。道路に叩きつけられて死ぬために?それも蛇に噛まれたまま?わたしは死ぬの?そのために生まれてきたの?誰も答えてはくれない。そう。答えるのはわたしなのだ。どんなときだって、生きている限りは、答えを出すのは自分自身だ。わたしは思い出した。揺るぎ無い決意を。忘れてはいなかった。わたしは夢を司る金魚になるのだ。そのためには、自分の運命だって変えてみせる!



へビーチー!!起きなさい!あなたはまだ死んでない!そうでしょ?わたしにはわかる。あなたはまだ生きている。いや、生かされているの。わたしを助けるために。わたしを助ける一瞬のために。さあ、ヘビーチー、わたしを助ける夢を見なさい!!



予想通り、わたしとヘビーチーは道路めがけて落下していく。今まで体験したことのない猛烈なスピードで。落ちる。落ちる。その寸前、ヘビーチーは『とぐろ』を巻いて、わたしをその上に乗せた。そして、『とぐろ』のバネは、着地の反動を利用してビョーン!とわたしを空へ押し上げた。



ありがとうヘビーチー!またねー!さようならー!!



空高く押し上げられたわたしは、空中を何度か回転し、その頂点からゆるやかに放物線を描いて、風にも助けられて用水路へと落ちた。が、水の中なら何とかなるという考えは甘かった。わたしはもう、胸ビレ一つ動かすこともできない。つまり泳げない。溺れ死ぬ。金魚なのに。



水の流れはさほど速くなかった。わたしの身体はその流れに乗りつつ徐々に沈んでいく。懐かしい水の中の風景を、わたしは魚の死んだような目で眺めた。短い旅だった、と思った。それでも故郷を離れ、外からソレを見られたことは、本当に良かった。ふと、思い出す。子供の頃、考えたこと。わたしが、ここでしか生きられない理由があるのか。又は、ここ以外のどこかでは生きられない理由があるのか。という問いの答えは、わたしなりに、今、出せる。ここでしか生きられない理由などないし、又、ここ以外のどこかで生きられない理由もない。だから、わたしはどこでも生きていけるし、又、どこでも生きていける、というわけでもないこともわかった。わたしは、わたし自身の能力と才覚において、適応可能な場所でしか生きていけない。



わたしはとうとう水の底に落ちた。ときおり水の流れに揺り動かされる、のがわかる。水。水を想った。水があって、良かった。水が無ければ、わたしは生まれてこなかった。ありがとう。そして、さようなら・・・。水が、またわたしを揺り動かす。フワッと、身体が浮き上がる。



フユアキ「レラ!お別れするのはまだ早いよ!」



ナツハル「起きてレラ!死んだフリは、もうしなくていいんだyo!」



フユアキとナツハルがわたしを挟み込んで、泳いでいる。



フユアキ「きみの体力が回復するまで、僕らがサポートするよ」



ナツハル「一緒に旅をしよう、レラ・・・君はすごいよ」



フユアキ「うん。すごい。レジェンドだね。伝説になったね」



わたしは夢見心地で、二匹の声を聞いていた。本当に夢のようだった。しかし、コレは夢ではないことを知っていた。何故なら、わたし自身が、夢を見ることは、もう、ないのだから。


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