皆さん、おばんです。
地面に転がり落ち、口を開くのもママならないわたしの身体を雨の粒が叩く。
雨のわたしへのメッセージは大体、次のようなものである。
起きろ、起きろ、起き上がれ。誰も起こしてくれないよ。自分で起きなきゃダメなのよ。
・・・しかし、わたしの体力は限界を超えていた。開かない口とは逆に、瞳孔が開いて視点が定まらない。わたしの世界がグルグル廻る。グルグル廻る世界の遠心力で、わたしは世界から分離される。やっぱりこれでサヨナラだ。
This is the end, beautiful friend. This is the end, my only friend, the end.
ごめんねみんな。わたしは皆の期待に応えることが出来なかった。わたしは夢を司る金魚になれなかった・・・何か聞こえる。遠くから。いいえ。とっても遠い近くから。遠のく意識の暗がりに点々と灯る電飾のように。その電飾の一個一個が形作る言葉 が「 jump ! 」
「レラ!」 「ここ」 「2」 「いる」 「yo!」
用水路から、フユアキとナツハルが交互にジャンプして、わたしを呼んでいる!
「レラ!」 「ここ」 「2」 「きて!」
無理無理…無理でしょコレ。この息も絶え絶えの姿見たらそんなの無理ってわかるでしょ?
「レラ!」 「あき」 「ラメ」 「茶」 「ダメ!」
諦めてるんじゃないの!動けないの!身体が言う事を聞いてくれないの!わたしは死にたくないのに!生きたいのに!
「レラ!」 「5」 「メン」 「ね!」
謝らないで!あなた達は何も悪くない!謝らないでよもう・・・?何で?ほんとに、何で、謝る?わたしの想いがフユアキとナツハルに伝わってるっていうこと?
「レラ!」 「そう」 「ダ」 「yo!」
このとき初めて、自分の想いが誰かに伝わることにわたしは気付いた。テレパシー能力が、わたしに備わっていることを。
強く念ずれば、わたしの想念は誰かに伝わる。そうして、誰かの想いも知ることが出来る。そう。だから、自分の身体が動かなくても、その想いだけで、誰かを動かすことが出来る!
助けて!誰かお願い!わたしを助けて!
わたしはイチルの望みにかけて、胸のうちで強く叫び、誰かが助けてくれるのを待った。しかし、すぐには誰も助けに来てはくれないだろう。すぐには何も起こらないだろう。わかっていながら、砂時計を見る思いで自分の命をみつめた。
フユアキとナツハルは、わたしを鼓舞するジャンプをやめていた。養殖池に降る雨だけが水面を跳ねていた。そうして、その水音に呼応してキモチ悪い鳴き声が聞こえた。
ゲロゲーロ、ゲロゲーロ・・・
わたしは背ビレが、いや、背筋がゾッとした。カエルの大将が、そのでっぷりとした腹を引きずって、わたしの前に現れた。
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