皆さん、おばんです。


ホれた弱みにつけこんだ、カマちゃんこと鎌田ミノルを利用したジョンのテロ計画を知ったわたし。しかし、わたしにはどうすることもできません。いや、できるけど、計画を盗み聞きしたことが後ろめたいし、警察とかにチクったら逆恨みされるかもしれないし、又、ジョンの仲間だと思われるのも嫌だし、けど、黙ってた場合、何かの罪に問われるのか?とか、家に帰ってから様々なパターンを想定した結果、俺サーカス探してるだけだし、と開き直って寝ちゃいました。


おやおや?ここはだれ?わたしはどこ?ああ、なんか、懐かしい感じのするところだな、と思ったら、子供の頃、親に何度も連れて来られた喫茶店でまんがな。ここでね、よくね、プール帰りにフルーツパフェとか食った覚えあるけど、まだあったんだ、懐かしいなー、けど、なんでこんなところに俺いるのかなーって不思議に思うでもなく、何の気なしに店の中に入って行きます。まあ夢だからね。それで、店の奥で5~6人が一塊になっている席があるんだね。わたしはソレが気になって、テーブルマジックか何かしているのかな?と誰かの肩越しに覗いてみると、そこにはなんと、以前、わたしの夢に出てきた、アロハシャツを着た男がいたのです!その男はサーカスの手がかりを知っているようないないような思わせぶりな事を言って、それっきりこれっきりだったのですが、まんまとまた、わたしの夢に出てきたってわけなんですが、前の夢のときの印象というか、容貌が違ってるような、ていうか、それもハッキリ覚えてないのですが、ソコに居る彼は、額に『M』の文字が刺繍されたプロレスラーみたいなマスクをかぶり、長袖のTシャツの上にアロハを着て、白い手袋を着けていました。そして、首が、ありませんでした。正確に言えば、マスクとシャツの間にあるだろう首にあたる部位が、透明でした。皆が集まって見ていたのは、まさに、その透明な部位に流れる、男が飲むアイスコーヒーだったのです。


男「どうだい。見えるだろう。喉から食道へと流れ落ちるアイスコーヒーが」


皆、目を丸くして、それを凝視しています。自分の目を疑うことも忘れて、です。


男「ようし。次に、これを見てみな」


男はおもむろにシャツをたくし上げ、腹を見せました。そこには、宙に浮いた、いや、浮いてるように見える、腹の中のアイスコーヒーがタプタプ揺れていたのです。それから、男はシャツを下ろし、腹を隠しました。


男「これから起こることに腰抜かすなよ。いいかい、行くぜ」


そう言って男は目を閉じ念じると、シャツをたくし上げ、腹の中を見せました。どよめきが起こります。そこには、アイスコーヒーはありませんでした


男「俺はね、腹の中に入れたあらゆるモノを、任意の場所に移動させることが出来るんだぜ」


次の瞬間、彼を囲んでいた一人の男性が苦しげに何かを吐き出しました。周りの人達は驚いて、とっさに男性から離れました。彼の腹の中にあったアイスコーヒーが、男性の口の中に移動していたのです。どんなトリックを使ったのか、いや、これがマジックなのかさえ、判然としません。


男「どうだい。驚いたろう。この問題、解けるかな?解けねーだろうなー」


アロハの男は得意げに言って、わたしの存在を見とめました。


男「やあ、また会ったね。たしか君、金魚を探してるんだったね」


わたし「そうです。やっぱり、サーカスのこと、知ってるんですね?」


男「知ってるも何も、ほら、ここに」


と言って、男は銀製のポットからコップに水を注ぎました。するとそこにサーカスが現れたのです!


わたし「サーカス?これマジ?マジでマジでマジでー!」


とわたしはまさに驚天動地、青天の霹靂、とか普段使わない言葉がアタマの中を駆け巡り、そのコップに手を伸ばすと、男はソレを取り上げます。


男「おっと、そう焦りなさんな。俺はまだ何も決めてないぜ。取引しようぜ。ビジネスのさ」


わたし「金、ですか?それとも、わたしの」


と言ってわたしは思わずケツの穴をグッと締めました。


男「勘違いしちゃいけないぜ。俺はそんなケチな男じゃないんだぜ。俺が欲しいのは、金でも名誉でも、もちろんアンタのカマでもない」


わたし「じゃあ、なんです?」


男「息子だ。息子を助けて欲しいんだ」


わたし「ムスコを・・・いや、あなたの実の息子さんですね。変な意味じゃなしに」


男「そうだ。ジョン、ジョン・ロトン、知ってんだろう?」


わたし「はい、知ってます。カレー屋の、いや、探偵の、どっちが本業かわからん英国人のムスリムですよね?」


男「そうだ。あいつの本当の名前は、モハメド・スレイマン。ジョン・ロトンは偽名だよ」


わたし「ギメイ?何故、偽名なんか」


男「MI6でスパイ活動するための、偽の名前さ。そして、その活動で得た情報を英国と、君達が言うアラブのカゲキハソシキに伝えているのさ」


わたし「・・・わかりました。いえ、正直、全然わかりません」


男「いいさ。君には関係のないことだからね。とにかく、全部、俺が悪いのさ。あいつが英国とアラブの2重スパイになったのは。あいつは、何も悪くないのだよ。そして、何も信じちゃいないんだ。神さえ信じちゃいないんだ。そう、あいつは俺の言ったこと、教えたことを忠実に遂行しているだけなんだ。子供の頃から、いいや、生まれる前から、女房の腹の中に居たときから、言い聞かしていたんだ。帝国を憎め、アラブの民を守れ、とね」


わたし「なるほど、ですね」


そうです。わたしは彼が、夢の中とはいえ、なにを言ってるのかさっぱりわからなかったのです。それでも、サーカスを奪回するため、わけわからん話にも食らいつこうと心に決めて、「わかりました。つまり、ジョンは、いや失礼、あなたの息子さんの正体は、カレー屋でもなく、探偵でもなく、えーと、あのう・・・良い奴なんですよね?」


男「そうだ。そうなんだ。良い奴なんだ。それを、皆に知って欲しいんだ。それが知られてないのは、俺のせいなんだ。全部、俺が悪いんだ。それは、俺の、親父の、そのまた親父の、ずっと前からの、過去の恩讐のせいなんだ。だから、息子を、助けて欲しいんだ」


わたし「助けるって言ったって、何を、どう助ければいいのやら」


男「あいつが、君の国のボスを狙っているのは知っているね?」


わたし「はあ、なんとなくは」


男「あいつはきっと、やるだろう。誰がなんと言っても。しかし、とても危険なミッションだ。失敗しても、成功しても、あいつは、日本で暮らせなくなるだろう」


わたし「はい」


男「あいつは日本を気に入っている。死ぬまで暮らしたいと思っている。そうなるために、どんな方法でもいい、あいつの愚行を、阻止して欲しいのだ。そうして、守ってほしいのだ」


わたし「・・・はい」


男「それが出来たら、今度、あんたの夢の中に現れたとき、この金魚の居場所を教えてあげよう」


わたし「マジすか?本当に、本当ですね?」


男「本当に、本当だ」


わたし「わかりました。何だかわけわからんけど、ジョンを、いや、ムスコさんを、わたしが責任を持って、全力で守らせていただきます」


男「ヨロシク頼むよ。じゃあ、これで」


と言って男はシャツをたくし上げ、コップの中のサーカスを水と一緒に飲み込みました。サーカスが喉から食道を通って胃の中に出てくるのがハッキリ見えました。それから男は、シャツを下ろし、腹の中を泳ぐサーカスを隠しました。それからまた、シャツをたくし上げると、もうそこにはサーカスの姿は無く、背後の古めかしいビニールクロス張りの壁しか見えませんでした。


わたし「ああ、ちょっと、ヒント、サーカスがどこにいるかのヒントだけ、教えてつかーさい」


男「だからー、それはまた次の夢の中で教えてア・ゲ・ル」


男はそう言うなり、マスクを取り、シャツを脱ぎ捨て、手袋も脱ぐと、どこにいるのかわからなくなりました。


わたしが異常な寝汗をかいて目を覚ましたときには、時計の短い針は午前11時を過ぎていました。ヤバイ!確か、A首相がホテルに到着するのは12時の予定だったはず!モタモタしていたら間に合わない!わたしは、またもや、パジャマ姿のまま、部屋を出なくてはならなかったのです。


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