皆さん、おばんです。
ジョンは、練習の甲斐あってか、フォームも安定し、確実にミートできるようになり、ホームランとまではいかないけど、ライナー性の強い打球が飛ぶようになりました。
そして意外だったのは鎌田ミノルの守備で、外野の守備の基本が出来ており、ハトやサラリーマンに直撃しそうな際どいボールも見事にキャッチしていました。しかし、あの変なノリはそのままで、キャッチするたびキャッキャキャッキャ歓声を上げ「ジョーン!ジョンの玉、捕ったどー!」とか言ってグラブを持たないわたしに、ノーバウンドで返球するのです。硬球をです。メジャー公式球を、です。わたしはハッキリと、鎌田ミノルのわたしに対する悪意を感じ、彼の印象をさらに悪くしました。
わたし「ジョン、鎌田さんは野球経験者なのだろうね」
ジョン「わかりません」
わたし「鎌田さんに、興味ないの?」
ジョン「キョウミ?どんな?」
わたし「だから、そういう、男と女のラブゲーム的な」
ジョン「ありません。わたしはノーマルですよ。しかもムスリムです。そんなこと、想像するだけでも罪だ」
わたし「固いなー。ところで、ルーシーは、何でついて来ちゃったの?誘ったの?」
ジョン「勝手について来たのです。わたしは誘ってませんよ」
わたし「本当かな~。ジョンにホの字なんじゃないの~?」
ジョン「ホノジ?ホノジって何?侮辱の言葉ですか?」
わたし「違うよ~。そんなムキになるなよ~。けど、ルーシーがあんなスゴイ球を投げるなんてビックリたまげたよ~」
ジョン「彼女は、シアトル出身なのです。子供の頃からイチローのファンだと言っていました」
わたし「そうなんだ~。どおりでね。あの投げっぷりを見ると、相当なもんだね。ファンがするモノマネの域を超えてるモンね。ああ、それにしても、ルーシーは美しすぎるアジアンビューティーだよね。そう思わない?」
ジョン「そう思います。彼女は心も美しい」
わたし「だよね。そんな感じするよね。よく知らんけど。ジョンほどは…ルーシーは、どんな男が好みなんだべなー。わたしみたいな、金魚探している変なおじさんは相手にされないんだべなー」
ジョン「どうして、そう思うのです?自信が無いのですか?もっと自信を持って、もっと自分をアピールすればいいのに。ルーシーが好きなら、ですけど」
わたし「いやいや、そんなマジになるなよ。だからガイジンさんは嫌だよ」
と言ってすぐ、失言だと思い、「君から見たら、俺もガイジンだけどね」と補足しました。
ジョン「何で、ごまかすのですか?ガイジンと言われて、わたしが嫌な気持ちになると思ったのですか?いいじゃないですか。それがあなたの本音なら。訂正したり、言い直したりしたら、最初から、あなたの言うことを信用できなくなりますよ」
わたし「言い直し、じゃないんだよ。どっちも、本当なのだよ。それで、本音と建前を使い分ける、とか、二枚舌、だとか思われても仕方ないな。そうやって、相手の気持ちを慮って、コミュニケートするのに、少なくともわたしは、慣れちゃってるんだよ」
ジョン「アイテのキモチをオモンバカる?そう、だから、いつも、過剰なほど周囲に気を配る。自分が有益な人物だと思わせるためですか?選挙前に、駅前で、通勤する人に手を振っている人と変わらない。そして、空気を読むとか読まないとか、何でそんなことを気にするのですか?もっと、自分をさらけだして、コミュニケートすればいいじゃないですか。そうしないと、健全な関係というものは生まれないし育まれませんよ。日本人は、感情の幅が狭すぎます。怒ったり、泣いたり、もっと、普段の生活で、家庭や職場で表してもいいじゃないですか。その、抑えつけられた感情は、どこへ行くのです?どこへ向かうのです?結局、自分か他人へ向けられるのじゃないですか。抑えられた感情は鋭利な刃となって自分や他人を傷付けるのじゃないですか」
わたし「いや、わたしは、他の国のこと知らんけど、どこの国のどこの人でも、おとなしい人や、うるさい人や、そういう個性をカテゴライズできるなら、そういう人達は、どこにも等しく居るでしょ。日本人が特別シャイでナイーブなわけじゃないでしょ」
ジョン「いいえ。特別です。わたしが知っている限り、特別、変わった国民です。ずっと前に、テレビを観ていたら、皆で集まって、悲しいドラマを見たり、朗読を聴いたりして、泣く人たちを紹介していました。彼等の目的は、ただ一つ。泣くこと、です。泣くことが、目的なのです。だから、その作品を楽しむだとか、評価するということは、まったく考えないのです。泣ければ、泣くことさえ出来れば、それだけで満足なのです。感情の幅が狭い、ということは、結局、そういうことです」
わたし「OK.ジョン、君の日本人評はまた日をあらためて拝聴しよう」
ジョン「ちょっと、しゃべり過ぎたようですね。早く、店に戻らなきゃ」
わたし「おっと、大切なことを言い忘れるとこだった。まだ、ヘッドが下がりすぎているよ。ヘッドをいくらか立てて、コンパクトに振る練習をするといいよ。ていうか、トスしたボールでホームラン打つだけならアッパースイングでも何でもいいけどね、ああ!そして」
ジョン「そして?」
わたし「鎌田さんを忘れなさんな!君がダラダラつまらないことを話してる間中ずっと探しているんだよ。君の打った愛という名のボールをね!」
そうです。名手のカマちゃんといえども捕れなかった、公園から飛び出たボールを追って、どこまでも遠くへ探しに行ったまま帰って来ないのです。なんという玉への執着、いや、ジョンへの愛の奉仕、彼こそまさに、愛の殉教者じゃあーりませんか。
というわけで、わたしとジョンは、それぞれ用事があるので、カマちゃんを放ったまま帰りました。
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