皆さん、おばんです。


目にも止まらぬ速さのレイザービームとはいえ、ルーシーの愛のボールをキャッチできなかったわたし。

ああ、ルーシーとは縁が無いのかな、とシリアスに落ち込んでいたら、ルーシーは対照的に明るくはしゃいで戻ってきて「ごめんなさい。変なところに投げちゃって」とわたしをフォローしてくれたとです。なんていうことだ。こんなキレイな女の子に気を遣わせるなんて!俺は馬鹿だ、弱虫だ、そうだ、俺は弱虫キングだ!とまでは思わないけど、そこへ、「ジョーン!」と大きな声を発しながら、わたしが捕り損ねたラブボールを持って、内股の警備服の男?女?いや、どう見ても男が全速力で駆けて来たのです。股が擦れて煙が立つほどに、です。


警備服の男「ジョーン、こんなところで何してんのよ~。店に行ってもいないしさ~、携帯も出ないし~。もう~」


ジョン「やあ、鎌田さん。お疲れ様です。今日は、夜勤明けですか?」


警備服の男「そうなの~。寝てないの~。だからジョンにトロットロになるまで煮込んで欲しいの~」


わたしはこの男に危険な匂いを察知しましたが、ジョンは冷静に、わたしとその男を交互に紹介してくれました。

警備服の男の名前は鎌田ミノル、通称カマちゃん、そのまんまですが、ホテルの警備員をしていて、ルーシー同様、店の常連客らしく、そして、ジョンにホの字らしいのですが、それは、とっても分かり易い形で表現されます。まず、ジョンの身体を必要以上にタッチする。そうしながら、ルーシーをギッと睨みつける。ルーシーは恐怖と嫌悪の表情で「わたしはこれから学校の授業に出ます。さようなら」と言い、その場から逃げるように立ち去りました。


鎌田「ふん、何よあの女。店で働いてる女よね?ジョン、店の子に手を付けちゃダメよ。商売人失格よ」


ジョン「はい・・・それより、あの件は?」


鎌田「そうそう、それそれ!持ってきたわよ」


鎌田は辺りをうかがい、わたししか居ないのですが、それでも用心深く、ジョンの耳元に顔を寄せてヒソヒソ何やら話し始めたとです。猫未満の脳味噌を持ちながら猫以上の嗅覚と聴覚を持つわたしは、その話に聞き耳をたてました。


鎌田「A首相は、ホテルに12時到着予定よ。正面玄関から直接ホテルに入って来るわ。それから12階の東の端のスイートで休憩を取って、12時30分から最上階の和食レストランの個室でV共和国のR大統領と会食予定よ。ここでは、回転寿司を食べたいというR大統領の無茶なリクエストに応えるために、人力で寿司カウンターテーブルを回すそうよ。その他、情報が入ったら、逐一、連絡するわ」


ジョン「ありがとう。よろしくおねがいします」


そう言ってジョンは、鎌田を優しく身体から離しました。鎌田は名残惜しそうにして指先でジョンの背中をなぞります。ジョンは「スシか・・・」などとブツブツつぶやき、わたしの存在をもはや忘れているようなので、これはチャンス!と思い、わたしは何も言わずこっそりその場を離れようとしました。が、そうは問屋が卸さなかった。


ジョン「ちょっと待って。どこへ行くのですか?」


わたし「いやー、そのう・・・バット!バットを探しにね。どこに飛んで行ったかな~。あっちの方だよね~」


と言いながら、じょじょにジョンから離れて行くわたしの背中に向かってジョンは爽やかに言いました。


ジョン「バットのストックは何本もありますよ。車に積んであります。さあ、ホームランを打つ練習を続けましょう」


すると、間髪入れずに通称カマちゃんこと鎌田ミノルが「ホームラン?ジョン、打って、打って大きいの、思い切り打って欲しいの~」と変なノリで絡んできて、わたしは何も言えず、いや、何か言う気力を失いました。

裏切りのサーカス コレクターズ・エディション [Blu-ray]/Happinet(SB)(D)
¥5,076
Amazon.co.jp

ホームランを打ったことのない君に/長谷川 集平
¥1,296
Amazon.co.jp

HIGH KICKS/ザ・ブルーハーツ
¥2,500
Amazon.co.jp