皆さん、おばんです。


カレー臭が充満するミニバンに揺られること約10分、ジョン&ルーシーに連れて来られたのはジョンのカレー屋近くの公園でありました。街なかの、ありふれた公園です。昼休み、会社員が弁当食ったり昼寝したりするベンチがいくつかあって、四角い周囲の、雑草が生い茂る植え込みにツツジやベニカナメが植わっていて、その内側に樹冠を広げた常緑樹が何本かあるような。広くもなく、狭くもなく・・・いや、ホームランを打つには狭すぎるとです。


わたし「Hey ! ジョン!ここで野球するのはデンジャラスじゃないかい?」


ジョン「ヤキュウ?わたしはホームランを打ちたいのです。野球なんてしませんよ」


わたし「ホームラン打つなら尚更だぜ!ハトとかサラリーマンにボール当たるぜ?ハトとかサラリーマンは労災降りないぜ!」


と、わたしが言ってもジョンは耳を貸さず、ミズノのデカいバッグから新品のバットとグラブとボールを取り出しました。バットはヒデキマツイモデルの木製バット、グラブはイチローモデル、ボールはメジャーリーグ公式球1ダースってマジ?軟式じゃないの?マジで硬球使うの?


わたし「ジョ~ン、ここで硬球はヤバイよヤバイよ~。軟式でいいじゃ~ん。いや、軟式もダメだよ~。ゴムボールで遊ぼうよ~。三角ベース教えてやっからさー」


て何か、出川哲朗みたいな感じになっちゃいましたが、段々、腹がたってきて、わたしは目敏くイチローモデルのグラブを説得の材料に使ったのです。


わたし「Hey ! ジョン、そのグラブ、貸してみな」


わたしはジョンが差し出したグラブを左手にはめ、その「型」を確かめました。


わたし「ダメだね。このままじゃ使えないよ。いいかい、新品のグラブは自分の「型」にして使うものさ。つまり捕球し易い「型」を作るのさ。まず、自分がキャッチしたいポケットの位置にボールをはさみ、麻縄でグルグル巻く。それからオリーブオイルをグラブの隅々まで塗り込んでレンジに投入。850℃で15分間チンするんだよこの野郎!わかったか!」


と最後は松岡修造みたいな変なキレ方して見せましたが、ジョンは意外に感心した様子で、全く逆効果だったようです。


ジョン「わかりました。次の練習のときには、そのように調理して持ってきましょう。それでは、ホームランを打つ練習をお願いします」


わたし「OK、じゃあ、ノックからだ。本当はその前に、ランニングやらストレッチやらをするんだけど、めんどっちいから省略するぜ」


ジョン「ノック?わたしはホームランを打つ練習がしたいのです」


わたし「つべこべ言わずに守備につけよこの野郎!そのインチキグラブを持ってな!」


と言うと、ジョンはわたしを睨み、その迫力に圧倒されたわたしはすかさずこう言いました。


わたし「ジョ~ン、ノックを制する者はホームランをも制すって野球のセオリーがあるんだよ~。けど、君には必要ないみたいだよ~」


わたしはそう言って、バットをジョンに手渡しました。


わたし「君は右利き?or 左利き?」


ジョン「ペンを持つのは右手ですが、お箸を持つのは左手です」


わたし「なるほど。スイッチヒッターか。じゃあ、どっちでもいいや」


わたしは適当にジョンを左打ちのスタンスで構えさせ、バットの持ち方から指導しました。


わたし「そう。右手でグリップして、左手をその上に添えて持つ感じ。いいぞ。さあ、思う存分、振るがいいさ。わたしがこの辺から、ボールをポンっと投げ入れるから、それを打ってミソ」


ジョン「はい!」


そうしてわたしは、明らかに野球初心者だとわかる、不恰好にバットを構えるジョンのミートポイントに合わせてボールを投げ入れました。そのボールの真下を、ジョンが豪快に振り抜いたバットが通過し、手から離れてどこまでも遠くへ飛んでゆきます。そして、バットの上を通過したボールは、ジョンの巧みな胸トラップから右足のアウトフロントでシュートされました?

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