皆さん、おばんです。
わたし「それからどうしたんすか?その着衣水泳の男は?」
アシカ「そう。その男は、なんと・・・」
わたし「なんと?」
アシカ「アタシを見つけて・・・」
わたし「見つけて?」
アシカ「襲い掛かって来たのよ!」
わたし「えー!?人間がアシカを?アシカを人間が?」
アシカ「そうよ。アタシはびっくりたまげてプールの中を逃げ回ったわ。当然、そ
の男はアタシを捕まえられなかった。そうして・・・」
わたし「そうして?」
アシカ「その男は・・・」
わたし「男は?」
アシカ「突然、泣き出したのよ!」
わたし「えー!?泣き出したー?」
アシカ「そうよ。しかもワーワー声を上げて、鼻水垂らして、子供みたいに」
わたし「なるほど。どっかの県議さんみたいにですね。それで?」
アシカ「そう。それで、意外にも、その男がポロポロ流す涙がキレイだったの。本当に、ダイアモンドみたいにキラキラ輝いて。それが、プールの水の中に流れ落ちて、うっすらと、水面が凍ったの。そうして、その水面に、夜空の星の瞬きが映って、アタシは、思わず、ソノ上を滑ってみたの。まるで、星空に浮かんでいるようなステキな気分だったわ。そうして、なんだか、懐かしい気持ちになって、ああ、アタシ、こんなところで生まれたかもって、いいえ、アタシはココしか知らないし生まれたところも知らないけれど、こんなところで生まれたかったって、こんなところに帰りたいって、そう心から、思ったわ」
わたし「それで、その意外にも涙がキレイな男は?」
アシカ「そう。それで、ソノ男は・・・」
わたし「男は?」
アシカ「知らないわ」
わたし「知らんのかー!」
アシカ「気付いたときには、姿を消していたわ」
わたし「そうですか・・・。ルーシーさん、長々とお話ししていただいて、ありがとう
ございました。それじゃ、このへんで失礼します」
アシカ「ちょっと待って。あんた、何で金魚なんて探してんのよ?」
わたしは何かを言おうとして、いや、適当に言葉を見繕ってその場をやり過ごそうとしたのですが、アシカのルーシーのマジな表情を見て、ちょっと、考え込んでしまったとです。
アシカ「サーカスって言ったっけ?その金魚もだけど、アタシや、イルカや、ペンギンに、アンタ達は、何を期待してるの?ココに何を見に来てるの?裸?」
わたし「じゃないですね。あなたに限って言えば、芸ですよ」
アシカ「芸?」
わたし「そう。あなたの芸を観た客の中には、マイケル・ジャクソンのパフォーマンスを観たのと同じぐらいの感動を持ち帰る人も少なくないと思いますよ。それぐらいスゴイことをしているのですよ。自信を持って下さい」
アシカ「よくわからないけど、アンタが前に言ったことと矛盾してない?アンタ、アシカと人間じゃ比べられないって言ったわよね。だったら、アタシとマイケルのパフォーマンスなんて比べようがないじゃない。アタシがムーンウォークでもすれば客は喜ぶの?そういうことなの?」
わたし「同じぐらいの感動を与えられる、と言ったのです。あなたとマイケルは
違います。けど、そうですね。人間の真似をする動物が人間は好きなの
です」
アシカ「そう。アタシ、わからないのよ。バカだから。アシカだから。何で客達がアタシを観て、笑ったり、ときには泣いたりするのかが。アンタにはわかる?」
わたしは彼女が納得するようなベターな答えを用意しようと試みましたが、やっぱり、何も出てきません。そうしている間に、ルーシーはわたしに背を向けてうずくまってしまいました。疲れて、眠ったようです。おやすみ、ルーシー。
わたしにとってサーカスが必要なように、皆、ルーシーが好きなンだよ。
これぐらいしか思いつかなかったとです。じゃあ、またね。
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