
メンチカツを食べてから 麻美は敦を追い出した。
『仕事がたまってるの。 結婚しなくなったんだから 仕事に燃えるのよ。』
進学塾の講師をしている麻美の勤務先は 全国にある 大型進学塾だ。
『結婚もなくなったことだし 転勤ありの 全国区勤務を希望することにしたの』
敦に 嫌味を伝えたくて そう言ってみた。
『うち ハワイと香港にも分校があるし 再来年は イギリスにも出来るみたいだから
希望を出すわ。』
敦は ナニカ言いたげな顔をしたまま マンションのドアを閉めて 出て行った。
敦が言うとおり 結婚ってなんだろう?
それは 麻美もずっと考えていた。 紙切れに誓いをたてたいのではない。
籍を入れ 家族として戸籍を持ち 責任も 財産も 共有しあう単位を 夫婦と言うんだと
今でも思う。 そこに 愛情だとか 恋情だとかが 消えてなくなってたって それが結婚だ。
憎しみあっていたとしたって 戸籍を連ねているなら 夫婦だ。
一緒に暮らしてなくたって 他に相手がいたって 籍が入っているなら 夫婦なんだろう。
だからって その紙を 上辺の契約書だなんて 思いたくない。
だからって その透明度を測るために 書類を捨てるほど 純粋でもいられない。
繰り返し考えた問いを 飽きもせずくり返し くり返しして 真夜中になった。
翌日の午後からの出勤に備えて そろそろ寝ようと思った時 携帯がなった。
『はい』 敦の番号だったので そっけなく出た麻美の耳に 聞きなれない声が響いた。
『救急隊の者ですが・・・』
真夜中に 自分のマンションの階段から転落して 骨折したらしい敦は
なんとか 携帯で救急車を呼んだが そこから 意識を失っていたそうだ。
到着した救急車に乗り込む前に どうしても 麻美と連絡を取ってと 頼まれたといって
救急隊の人が 電話をくれたのだった。
大急ぎで支度をし 敦のアパートまでタクシーに乗り込んだ。
保険証と 着替え 明日からの仕事への連絡先・・・ と思いつく物を 紙袋に入れ
待っててもらったタクシーで 救急病院へと 急いだ。
『彼氏が急病かい?』 タクシーの運転手さんに言われ ええ と答えたが
彼氏か? と聞かれると そうではないのに。
ややこしい関係って ほんと めんどくさいんだわ と敦に向かって 舌打ちをした。
心配と不安と同時に なぜ私が? という思いが混じる。
それは 敦への感情とは違った 立場としての居場所が 不安定だからだ と。
まるで 自分が 飼い主も 寝場所もない 野良犬みたいな気分だ。
きちんとしよう。 関係というのは とっても大事なものだと 麻美は思い立った。
ランキングでの 急上昇を いまだ 夢見ております 笑
今度こそ