それから、新店舗の開店準備で忙しいにも関わらず、先生は文字通り3食の面倒をみてくれた

 

病院の診察にも一緒に行き、医師のアドバイスを聞きながら、食欲のない私に的確で様々な工夫をした食事やお弁当を作ってくれた

 

彼の母親からは、知り合いの漢方医に新たに配合してもらったという、ありがたくも更に激マズな漢方薬も届いた

 

それでもうすぼんやりとした味覚はなかなか元に戻ってくれなくて焦りばかりが募った結果

脆くもキャパを超えてしまったメンタルが悲鳴を上げて、ある日とうとう発熱してしまった

 

額に触れる冷たい手の感触、名前を呼ぶやさしい声

 

応えたいのに、瞼も身体も重くていうことを聞かない

 

 

「ゴメンな・・・」

 

 

つぶやくような声が、私の上をゆっくり流れていく

 

 

「もう、不安にさせたりしない。」

 

 

それは、私に対する謝罪の言葉のようであり、自分自身への誓いのようにも聞こえた

 

先生、私こそごめんなさい

 

勝手に不安になって、結局また迷惑かけて

 

本当はね、私じゃない方がいいのかなって

 

こんな私じゃ、先生のこと幸せにできないんじゃないかって

 

だけど・・・

 

 

「情けないけど、お前が元気でいてくれないと、何にも手につかないんだよ。」

 

 

そんなこと言われたら、私またうぬぼれちゃうじゃないですか

 

 

「愛してる。」

 

 

それとも熱のせいかな?

 

これは、都合のいい幻聴なのかな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

喉の渇きを覚えて目が覚めた

 

身体のだるさは残っているが、どうやら熱っぽさは抜けたようだ

 

 

「いたた・・・」

 

 

寝過ぎで痛む腰をさすりつつ部屋を出ると、キッチンに立つ先生と、ダイニングで食事を摂るお母様がいた

 

 

「あら・・目が覚めたの?」

 

「どうした?」

 

「ちょっと、喉が渇いて・・」

 

「今持ってってやるから、寝てろ。」

 

「もう大丈夫。熱も下がったみたいだし。」

 

「そっか?」

 

 

近づいてきた先生が私の首筋に手を当てると、お母様の小さな咳払いが聞こえた

 

 

「・・・フレンチトースト?」

 

 

ふんわり香るバターとメープルシロップ

 

 

「食べて・・・みるか?」

 

 

そのとても甘美な誘惑に、私は思わず頷いていた