■梅雨と「雨の匂い」
 あ、傘持ったかな?
 玄関を出た途端に傘の所在が気になる、そんなことがあります。
 急に傘が気になったのは、雨の匂いを感じたからです。

 目に見えず、触ることも出来ないものですが、この「匂い」というやつは案
 外に人の行動を支配しているようです。

◇雨の匂い
 「雨の匂い」を感じることがありますが、なぜ雨に匂いがあるのかなと不思
 議に思っていました。雨の匂いとは云いますが、ずっと雨が降り続いている
 ときにはそれをあまりじることがありません。
 どうも雨そのものの匂いではなさそうです。

 晴れた日が続いた後、久しぶりに雨が降る。そんなときに雨の前触れのよう
 にこの「雨の匂い」がするようです。長年疑問に思っていたのですが、ある
 本(※)を拾い読みしているときに、「雨の匂い」の正体についての記述を
 見つけました。この本とは「季節と暮らす 365日」(日本気象協会編)。

 本の記述によれば、雨の匂いは植物に由来するペトリコールと土中の細菌に
 由来するジオスミンと云うものだそうです。

 ペトリコールは、日照りが続き、植物の発芽生育に過酷な状況の時に植物が
 発生する一種の油だそうです。この油は種子の発芽を遅らせる働きがあるそ
 うです。植物が種子に

  「今はまだ芽を出してはいけないよ」

 と知らせるためのサインなのです。
 ペトリコールが存在するところに雨が降ると土や岩に吸着したその成分が解
 き放され、雨の匂いとして感じられるようです。

  あ、雨の匂いだ

 と感じるのは、どこか近くで雨が降り始めペトリコールが大気中に放出され
 ているからなのでしょう。私にとっての「雨の匂い」は、地に落ちた植物の
 種子にとっては、発芽を抑制していた物質が洗い流されたということなので

  「雨が降ったから、もう芽を出しても大丈夫」

 というサインとなるわけです。「雨の匂い」のもう一つのジオスミンの方は
 地中の細菌が発する匂いで、一種のカビ臭。少量ならば「大地の匂い」とも
 いえそうですが、大量になるとちょっと辛いかも。

 こちらは、雨が近づき湿度が上がるとそれに反応して土中の細菌が発生させ
 るのだとか。また、雨降り前だけでなく雨上がりの土からも匂って来ます。

 そういえば、雨が上がり土か乾きだしたばかりの時に、這いつくばって巣穴
 に出入りする蟻を眺めていた時(昔々子供の頃の話です)に嗅いだ「土の匂
 い」が、あれだったようです。

 梅雨の季節は雨の季節であると同時に、晴れさえすれば一年で一番日差しの
 強い夏至の時期でもありますから、地面は雨が降っては濡れ、濡れては強い
 日差しに乾かされ、ペトリコールの香りとジオスミンの臭いを生み出すこと
 になるのでしょう。

 さてさて、次に感じる雨の匂いはペトリコールのものなのか、ジオスミンの
 ものなのか? どちらでしょうね。

 

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2024/06/27 号