花  調  べ

 

シキミ(樒)

別名が多く、

「シキビ」「ハナノキ」「ハナシバ」「ハカバナ」「ブツゼンソウ」「コウノキ」「コウシバ」「コウノハナ」「マッコウ」「マッコウギ」「マッコウノキ」など~

 

花を付けたシキミ、養老山地(岐阜県海津市)にて、2013年3月25日撮影

シキミ(樒、学名Illicium anisatum) は、マツブサ科シキミ属分類される常緑性小高木から高木の1である。は枝先に集まってつき、春に枝先に多数の黄白色の花被片をもつをつける(図1)。本州から沖縄諸島および済州島に分布する。アニサチンなどの毒を含み、特に猛毒である果実が中華料理で多用される八角に似ているため、誤食されやすい危険な有毒植物である。ときに仏事や神事に用いられ、しばしば寺院墓地に植栽されている。また抹香線香として利用されることもある。別名が多く、「シキビ」「ハナノキ」「ハナシバ」「ハカバナ」「ブツゼンソウ」「コウノキ」「コウシバ」「コウノハナ」「マッコウ」「マッコウギ」「マッコウノキ」などがある。

 

特徴

常緑小高木であり、高さはふつう 2 - 5 メートル (m) だが、ときに 10 m 以上の高木になる[27][4]。日本海側では高さ 3 m 以下であることが多い[28]。材は散孔材道管は直径 50マイクロメートル (μm) 以下で、単独または数個が接線方向に複合する[29]樹皮は帯黒灰褐色でやや平滑 (下図2a)、若枝は緑色[27] (下図2e, f)。

 

互生するが、枝先に集まってつく[27][4] (下図2b, c)。葉柄は長さ 5 - 24 ミリメートル (mm)、葉身は倒卵状長楕円形から倒披針形、5 - 15 × 2 - 4 センチメートル (cm)、葉先は急鋭頭、葉脚は広いくさび形、中央脈以外の葉脈 (側脈5 - 8対) は不明瞭[27][4][30] (下図2b, c)。葉の表面は濃緑色で光沢があり、裏面は灰緑色、表裏とも無毛、厚く革質、葉を透かすと油点が見え、傷つけると抹香の匂いがする[4][27][30]。葉芽は長卵形 (下図2c)、花芽は球形 (下図2f)[4]

  

2a.樹皮      2b.葉              3c.葉と花

 

花期は3 - 5月、ソメイヨシノの開花よりも早い春彼岸のころに、葉腋から短い花柄を出して黄緑色を帯びた白色のが咲き、ときに枝先にまとまってつく[4][5][27][31] (下図2d)。花は直径 2.5 - 3 cm、花柄は長さ 5 - 35 mm[4][27][30] (下図2e, f)。花被片はらせん状につき、(12 -)16 - 24(- 28)枚、萼片と花弁の明瞭な分化は見られないが、外側のものはやや幅広くて短い楕円形、内側のものは細長い線状長楕円形 (長さ 10 - 25 mm) で多少波状によじれる[4][8][27][注 1] (下図2d–f)。雄しべは15 - 28個がらせん状につき、長楕円形、花糸はほぼ同長[8][27] (下図2d, e)。雌しべ離生心皮からなり、7 - 10個 (ふつう8個)、1輪につく[8][27] (下図2e)。

 

  

2d. まとまってついた  2e. 花 (正面)       2f. 花 (裏面)

 

果期は9 - 10月、8個ほどの袋果が側面で合着しており、8角形から星形、直径 2 - 3 cm[5][27][4] (下図2g, h)。各袋果 (心皮) は 12 - 18 × 6 - 10 × 3 - 6 mm[27]。果実は木質化し、裂開した後に乾燥によって幅が狭くなって種子をはじき飛ばし、また動物によっても散布される[32][33][34] (下記参照)。種子は光沢がある黄褐色、やや扁平な楕円形、長さ 6 - 8.5 mm[27][4] (下図2i)。

 

  

2g果実 (裂開して種子が見える)   2h. 果実 (種子が放出されかかっている) 2i. 種子

 

染色体数は 2n = 28[27]葉緑体DNAの塩基配列が報告されている[35]

 

毒性

果実種子など全体が有毒である[8][4][36]。なかでも果実、種子は毒性が強く、食用にすると死亡する可能性がある[27][37][38]。実際、下記のように事故が多いため、シキミの果実は植物としては唯一、毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている[39]。中毒症状は、嘔吐、腹痛、下痢、痙攣、意識障害等であり、昏睡状態を経て死に至ることもある[40][41][42]。有毒成分は神経毒であるアニサチン (anisatin) やネオアニサチン (neoanisatin) である[43] (下記参照)。

 

同じシキミ属に属するトウシキミ (Illicium verum; 日本には自生していない) は毒成分を含まず、果実は八角(はっかく八角茴香(はっかくういきょう大茴香(だいういきょう、スターアニスとよばれ、香辛料生薬として利用される[44][45]。シキミの果実は形態的にこれに非常によく似ているため (上図2h, 図3)、シキミの果実をトウシキミの果実と誤認して料理に使用し食べることで中毒を起こす事故が多い[35][38][40][41]。そのため、シキミの果実は「毒八角」ともよばれる[46]。トウシキミの果実とくらべると、シキミの果実はやや小型で先端が鋭く尖り、また抹香の匂いがする点でも異なる[38]第二次世界大戦以前は、シキミの果実を実際に「日本産スターアニス」として出荷し海外で死亡事故などが発生したことがある[40][47]。またシキミの種子は、ややシイの実 (果実) に似ているため、誤って食べて集団食中毒を起こした例がある[48]

 

人間以外の動物に対しても、ふつうシキミは有毒である。たとえば、放牧されるウシは、毒性のある草を選択して食べないことが多いが、シキミに関してこれを誤食して死ぬ可能性があると指摘されている[49]。また、シキミはニホンジカの食害を受けにくく、不嗜好性植物リストにも挙げられている[50]。ただし、安芸の宮島サルは、シキミの種子を食べるという[51]。また後述のように、ヤマガラヒメネズミはおそらくシキミの種子を食用としている[32]

 

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