■「桐始めて花を結ぶ」の桐の正体は?
 本日から大暑の期間に入ります。
 二十四節気をさらに細分化した七十二候では大暑の初候

  桐始めて花を結ぶ (きりはじめて はなをむすぶ)

 の季節となりました。

◇桐の花?
 桐の木は、その材質はきめが細かく、軽いのに狂いが少ない。防湿性、耐火
 性にもすぐれており、磨けば光沢も出るとあって、優良な木材として古くか
 ら箪笥や建具、履き物(下駄など)の材料として使われてきました。

 その花は薄紫色で、4月末~5月頃、晩春~初夏の頃に咲きます。
 派手な花ではありませんが、初夏の青空を背景に咲く薄紫色の桐の花は、な
 かなか美しく、印象的ですので、季節の移ろいを表す七十二候に取り入れら
 れるのも不思議ではありませんね・・・?

 桐の花が七十二候に取り入れられることにはまったく異論のない私ではあり
 ますが、そんな私でもこの時期の

  「始めて花を結ぶ」

 には首を捻らざるをえません。
 だって、桐の花の咲く季節は4月末~5月頃なんですから、時期が違いすぎま
 すよね。

 七十二候は元々は中国で生まれたもので、それが輸入されたものです。その
 ため、中には日本の風土に合わないものもあり、日本に入ってから日本風の
 七十二候に作り直されてきました。そうした日本風に作り直された七十二候
 は「本朝七十二候」と呼ばれます。日本生まれの七十二候という意味です。

 今回採り上げた「桐始めて花を結ぶ」も本朝七十二候の一つ。江戸時代の初
 期に作られた貞享暦(じょうきょうれき)から採用されています。

 中国直輸入の七十二候であれば、中国と日本の風土の違いで説明をつけるこ
 とも出来ますが、日本生まれの本朝七十二候と言うことならそういうわけに
 は行きません。江戸時代とでは気候が違う・・・とも言えませんからね。

 なんだか変なこの言葉の謎は、何のことはない「桐」の違いでした。
 桐は桐でもこの桐は梧桐(あおぎり)。
 桐とは違う植物です。

◇梧桐
 梧桐は青桐とも書きます。その名の由来は若い木は大きくなってもその幹が
 緑色をしていることからだと言われます。確かに梧桐の若木の幹は緑色をし
 ていますね。

 梧桐の大きな葉っぱは、確かにどことなく桐の葉っぱに似ていなくもありま
 せんので、梧桐と呼ばれるようになったようですが、植物学的な分類では全
 く別の植物で、桐の仲間ではありません。

 ※桐(キリ)・・・ゴマノハグサ科キリ属
  梧桐(アオギリ)アオギリ科フィルミアナ属

 肝心の花の咲く時期ですが、現在はだいたい 6~ 7月頃。
 これもちょっとずれているようにも思えますが、まあ誤差内でしょうか?
 中国から奈良時代に渡来した植物だそうで、中国では伝説の霊鳥、鳳凰が止
 まる木とされるとのことですから、目出度い木と考えられていると言えるで
 しょう。

 梧桐はまた、生命力旺盛で伐られても切り株から蘖(ひこばえ)となって直
 ぐに成長を始めるほどで、よく庭木や街路樹に使われますから、皆さんも身
 の回りを良く見れば、梧桐の木を見つけることが出来ると思います。
 (私の近所にも、結構大きくなった梧桐の並木があります)

 いまは、「桐始めて花を結ぶ」時期なので花も見えるはずですが、花は白く
 小さく、あんまり花という感じの花では有りませんし、背の高い木では大き
 な葉っぱの陰に隠れてしまって目立たないかもしれません。

 梧桐ってどんな木? と思う方は、

 森と水の郷あきた・・・樹木シリーズ48 アオギリ
 http://www.forest-akita.jp/data/2017-jumoku/48-aogiri/aogiri.html

 などをご覧ください。

◇それでも気になる季節のずれ?
 桐始めて花を結ぶの桐が、梧桐だと言うことでひとまずは問題解決ですが、
 それでもちょっと気になります。

 梧桐の花の咲く時期は現在はだいたい 6~ 7月頃。「始めて花を結ぶ」と言
 うには今の時期は遅すぎるような気がしませんか? (それは、新暦と旧暦
 の差では・・・なんて言わないでくださいね。二十四節気や七十二候は、太
 陽の位置に基づいているので、新暦も旧暦も関係ありません)

 もしかしてと思うことは、この言葉が採用された貞享暦が生まれた時期は、
 天文学上ではマウンダーの極小期と呼ばれる時期に一致することです。
 マウンダーの極小期とは、AD1645~1715年の太陽黒点数が極度に少なかった
 時代のことで、この期間は地球全体の気温が低下した時代だとされています
 (「マウンダーの小氷期」と呼ばれることもあります)。

 もしかして、今より寒かったこの時代、本当に梧桐の花の咲き始める時期は
 今頃だったのかもしれませんね。
 まあ、最後の部分は私の根拠のない妄想ですけれど。

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.std@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2022/07/23 号