■端午の節供の薬玉(くすだま) くす玉というと、現在は建物の落成記念や、何かの大会の開催を祝って、玉 につけられた飾りひもを引くと玉が二つに割れ、中に入っていた花吹雪や垂 れ幕が登場するという、「くす玉」が思い浮かびますが、本来は くす玉 → 薬玉 で、蓬(よもぎ)や菖蒲(しょうぶ)やその他の香草、香料、薬草を錦の袋 に詰めて丸く作り、その下に五色の糸を垂らしたものをそう呼びました。 香草や薬草を摘めて作った玉ですから、まさに薬玉だったわけです。 ◇端午の節供と薬玉 薬玉は元々端午の節供に柱に飾り、その香りによって邪気を祓うためのもの で、中国から伝わった風習です。 現在の「くす玉」では玉を割るための仕掛けひもとしか見られないあのひも も、本来は「五色の糸」で古代中国において森羅万象を形作る五行が調和し た状態を表すものでした。 端午の節供と言えば、野山には草木が生い茂る時期。 野に出れば、香草、薬草の類も姿を現し、そこかしこで見つかる時期でした から、こうした香草、薬草の類を集めて薬玉を作るのにはよい時期でした。 また、旧暦時代の「五月」は梅雨の時期で、ものが傷みやすく、病気にもな りやすい悪い気の多い月だと考えられましたから、そうした悪い気(邪気) を祓うために、香り高い薬玉が使われたものと考えられます(邪気は芳香が 嫌いらしい)。 中国から伝わり、宮中でこの「薬玉」を飾るようになりましたが、初期の頃 の薬玉は極めて質素なもので、五色の糸に蓬や菖蒲を貫いたものに過ぎなか ったそうです。それが次第に美しく飾られるようになって、現在の「くす玉」 にまで至ったようです。 さて、現代のくす玉ではなく本来の薬玉は宮中の柱にかけ、また身につける などして邪気を遠ざけました。そして九月九日の重陽の節供には香りの薄ま った薬玉を重陽の節供に作った新しい茱萸袋(しゅゆぶくろ)に取り替えま した。薬玉も茱萸袋も共に芳香の漂うもの。どちらもその芳香によって邪気 を祓う呪いでした。 現在の五月は、初夏の気持ちのよい季節で「邪気の満ちる月」という感じは ありませんが、気持ちのよい季節で野遊びには最適の時期でありますから、 機会があれば野原で香草、薬草を集めて薬玉を作り、家族の一年の無病息災 を祈って、家の柱に飾ってみるなどしてもよいかも知れません。 (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、 magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)
オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2009/05/05 号