■節供植物、秋茜(あきあかね)
 旧暦の日付では明日は九月九日、重陽の節供となります。
 別名菊の節供とも呼ばれる重陽の節供ですので、新暦での日付では菊の蕾も
 まだ固い時期の重陽の節供となってしまって今ひとつピンと来ません。
 「菊の節供」ということであれば、やはり今ぐらいがそれらしい季節だと感
 じます。

 さて、本日はこの重陽の節供に関係した植物の話しです。ここまで「菊の節
 供」と書いてきましたから関係した植物の話しといえば菊の話しとなりそう
 なものですが、菊の話しはあちこちで見かけると思いますので、本日は目を
 転じて、別の植物について書いてみます。

◇重陽の節供と山茱萸(さんしゅゆ)
 重陽の節供は他の五節供同様、もとはと言えば中国から渡来した行事です。
 この行事の本家である中国では、この重陽の日には髪に茱萸(しゅゆ)の枝
 を髪に挿して、地元の小山や丘などに登り家族の長寿と一族の繁栄を祈った
 といいます。

 さて、ここで登場した植物があります。茱萸です。
 日本では茱萸と書くと「グミ」と読まれてしまうのですが、ここで登場した
 茱萸は別の植物。日本では茱萸の上に「山」をつけた「山茱萸」が茱萸です。

 節供は一種のお祓いの行事でもありますが、山茱萸の枝を髪に挿すことも邪
 気を遠ざけることに関係します。芳香は邪気を遠ざける働きがあると考えら
 れます。このため邪気を祓う行事でもある節供には芳香を放つ植物と関係が
 深く、端午の節供の菖蒲や上巳の節供の桃の花などがそれにあたります。

 では重陽の節供と関係の深い山茱萸はどうかというと、これもまた香りの強
 い植物の一つとして知られます。山茱萸は秋に赤い実をつけますが、この実
 を取り、乾燥させると強い芳香を放ちます。このためこの乾燥させた実を袋
 に詰めれば、これは魔よけ厄よけの匂袋となります。

 芳香をもち、また珊瑚のように赤く輝くその実は装飾としても美しいためで
 しょうか、これを髪に簪(かんざし)として挿して魔よけとしたわけです。

◇ハルコガネとアキアカネ
 山茱萸は江戸時代(享保年間といいますから1716~1736頃)にその実を乾燥
 させて薬とするため輸入されました。
 香りの強い気であることから山椒(さんしょう)と混同されることもあるの
 ですがこちらは山茱萸(さんしゅゆ)。葉っぱの形なども全く別物です。

 山茱萸は春先に、黄金色の花を咲かせます。
 まだあまり花のない早春のには、その黄金の花は大変目立つため、山茱萸は
 「ハルコガネ(春黄金)」の別名があります。

 次に重陽の節供頃となると、真っ赤なスベスベした実が生ります。一見する
 とグミの実とそっくりです(よく見れば、グミの実に見られる斑点がないの
 で区別出来ます)。
 赤くスベスベしたその実は一日に 2~ 3粒食べ続けると不老強壮の効果があ
 ると考えられるものです。見た目も大変美しく、秋に美しい赤い実をつける
 ことから「アキアカネ(秋茜)」「アキサンゴ(秋珊瑚)」という別名が生
 まれました。

  ハルコガネ(春黄金)にアキアカネ(秋茜)

 春の名前も秋の呼び名も共に佳い名を得た植物です。

 山茱萸は江戸時代に渡来した植物ということですから、深山で見かける植物
 ではなく、庭や公園、また人家に近い里山などで見かける植物です。
 身の回りを注意して眺めれば、赤い実をつけた秋茜を見つけることができる
 かもしれません。

 ちなみに、Web こよみのページの「重陽の節供」の記事に掲げている写真は、
 東京勤務時代に近所の公園で見つけた春黄金と秋茜の姿を写したものです。
 どんな花? どんな実? と思った方はご覧になって下さい。

  重陽の節供 → http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0729.htm

  (『暦のこぼれ話』に取り上げて欲しい話があれば、
   magazine.sp@koyomi.vis.ne.jp までお願いします。)

オリジナル記事:日刊☆こよみのページ 2008/10/06 号

 

 

 

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日本大百科全書(ニッポニカ)「重陽の節供」の解説

重陽の節供 ちょうようのせっく

旧暦9月9日の行事、九月節供。陽数の九が日月に並ぶ佳日なのでこの名があり、五節供の一つに数えられている。中国の影響を受け、わが国でも古来宮中では、杯(さかずき)に菊花を浮かべた酒を飲み、群臣に詩をつくらせるなどの菊花の宴が行われていた。また、このころは本格的な稲の収穫期に入るときなので、農村部では、収穫にまつわるさまざまな行事が行われてきた。とくに東北地方では、9日だけでなく19日・29日をあわせて、サンクニチまたはミクニチと称し、どの日かに重点を置いて餅(もち)を搗(つ)き、刈上げを祝う所が多い。長野県上伊那(かみいな)地方では、9日を神の日、19日を百姓の日、29日を町人の日などといって祝った。これらの日に、かならずナスを食べるという所も多い。静岡県西部では好きなだけ食べる日とされ、「九月クンチの腹太鼓」などといっていた。九州北部では、長崎市の諏訪(すわ)神社をはじめ秋祭をオクンチと称して、この日(現在では10月9日)を祭日としている所が多い。

[田中宣一]

重陽の節供

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世界大百科事典内の重陽の節供の言及

【重陽】より

…9月9日の節供。陽数(奇数)の極である9が月と日に重なることからいい,重九(ちようきゆう)ともいう。中国行事の渡来したもので,邪気を避け,寒さに向かっての無病息災,防寒の意味もあった。菊花宴ともいい,685年(天武14)を起源とするが,嵯峨天皇のときには,神泉苑に文人を召して詩を作り,宴が行われていることが見え,淳和天皇のときから紫宸殿で行われた。菊は霊薬といわれ,延寿の効があると信じられ,この日,菊酒を飲むことも行われた。…

※「重陽の節供」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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