<淡島世理視点>
昼休憩後。
室長に提出報告する書類を持って、執務室へと向かいノックする。
「淡島です」
「どうぞお入り下さい」
「失礼します」
入室すれば室長は茶室におり、一人の女性と向かい合って座っていた。
女性隊員は私と目が合うと会釈し、私もそれに応える。
彼女は先程赤のNo.2から連絡があった御崎マドカ…。
「昨日頼まれていた情報分析結果が出ましたのでご報告にきました」
「ありがとうございます。よろしければ淡島くんも御崎くんと共にお茶はどうですか?」
「申し訳ありません。この後、急遽稽古をいれましたので遠慮させてください」
最近はストレイン(能力者)が絡む事件が多発し、稽古に時間が取れなかったため、
本日急遽稽古を入れることとなっていた。
「わかりました。ではまたの機会に」
私が室長に頭を下げれば、一緒にいた女性隊員が口を開いた。
「宗像室長、私もそろそろ失礼します。美味しいお茶をありがとうございました。
まさか宗像室長にお茶を点てていただけるなんて光栄です」
「御崎くんに喜んでいただけて何よりです」
「それでは仕事に戻ります」
「御崎くんの情報分析や解析はわかりやすいとあの伏見くんも褒めていましたよ。
私も同感です。
これからも宜しく頼みますよ」
宗像室長は口元に淡く笑みを浮かべながら彼女を優しく見つめる。
「ありがとうございます!」
室長の言葉に彼女は花が咲くように顔を綻ばせた。
そのやりとりに私も目を細めた。
宗像室長は必要な時に必要な言葉を下さり、私たちの士気を上げてくださる。
本当に王としてふさわしく、尊敬の念を失うことはない。
一緒に執務室を出た、隣で歩く彼女に声をかける。
「御崎さん?」
「はい、何でしょうか。淡島副長」
「宗像室長が貴方にお茶を出すなんて気に入られているのね」
「そう、なんでしょうか」
「室長は認めた人にしかお茶を点てない人だから」
「もしそうだとしたら、本当に嬉しいです」
笑顔を向けられるとつられるように笑みを浮かべてしまう。
これが彼女の魅力でもあるんだろう。
「御崎さん」
「はい」
「もし良ければなんだけど、時間ある時に一緒にお酒なんてどう?」
「え!ご一緒していいんですか?!」
「勿論」
頷けば御崎さんは「光栄です!」と声を弾ませた。
「そうね…。明後日とかどうかしら」
「明後日大丈夫です。次の日は非番ですし」
「そう。じゃあまた連絡するわ」
「はい、お待ちしています!」
その眩しいほどの笑顔に目を細めながら、
ふと宗像室長とやりとりしていた御崎さんを思い出す。
「御崎さんは宗像室長を慕ってるのね」
「はい、勿論。凛々しい立ち姿に深い知識と的確な判断で
物事の先の先まで読まれているのは凄いと思います。
微力な私ですが、少しでも青の王のお役に立てればと思っています」
「いい心がけね」
「ありがとうございます!では失礼します」
御崎さんと別れ、稽古着に着替えるため更衣室へと向かう。
御崎さんが『赤のスパイ』…ということは…。
いえ、採用試験の際に宗像室長はしっかりと調べ上げる方。
その点は彼女を信頼しているのかしら…。
赤のNo.2もしばらく会えていないようだし…。
宗像室長は定期的にお茶に誘うことで監視し、言動や行動に荒がないか調べられてるか…。
もしくは利用できる要素がないか探りを入れている…。
どちらにしろ私が判断することではないわね。
着替えた私は深呼吸をし、道場へと足を向けた。
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