「室長。入ります」
入ってみたものの、人の気配がしない。
「…いない」
ふと思いつき、本棚へと足を向ける。
昨日、本を探していた時に見つけた濃紺の本の中にあった小さな認証画面。
それに指で触れると本棚が自動的に移動し、壁が開けばそこには装飾も何もないまるで独房のような小部屋。
ベッドに腰掛けていた彼は悪びれる様子もなく、私に向かって笑った。
「おや、見つかってしまいましたか」
「見つけてほしかったんでしょう?」
私も笑えば「敵いませんね」と笑みを零した。
「何か温かい飲み物をお持ちしましょうか。ベッドに横になられますか?」
「マドカ」
手首を掴まれ引き寄せられるまま、その腕の中へと包まれる。
「…おかえりなさい」
「…ただいま」
待ち焦がれていた体温を引き寄せたくて抱きしめれば、
応えるようにきつく抱きしめ返される身体。
一つ一つの仕草に、安堵と愛おしさが募る。
私の膝枕で休む室長。
艶やかな髪を優しく撫でていれば、室長がそのままの体勢で口を開いた。
私はそっと手を止める。
「第1王権者、アドルフKヴァイスマン、その体内に引き込まれていた第7王権者無色の王に
手をかけたのは第3王権者周防でした。
早朝貴方に電話をしましたね。あの直後から周防と交戦をしていたのですよ。
お互いに身を削りながら、周防の思惑通り十束多々良殺害の犯人である無色の王をおびき寄せ
敵は討った。
しかしもうその時には周防のヴァイスマン偏差は限界を超え、
ダモクレスダウンを引き起こすところだった。
…周防を手にかけたのは、私です」
続く言葉を少し待つもまだ彼の中で整理がついていないのか出てはこない。
「周防は俺に…」
私は髪を撫でるのを再開した。
「今はまだ胸の内に」
「そう…だな」
「マドカ…。お前を抱きたい」
交わった視線と言葉に苦笑いが浮かぶ。
「ここは屯所内ですし…、今日は交戦した後です。お休みしましょう?」
「命令だとしても?」
「昨日はこちらで過ごしたので汚い身ですよ?」
「それを言うなら俺も一緒だ」
触れられた頬の温もりが嬉しくて、そっと目を閉じれば浮かんでいた雫が零れそうになるのを
彼の指が拭ってくれた。
「…仕方のない人。優しく抱いてくださいね?」
「保証は出来ない」
うっすらと笑う貴方に私の心は疼いた。
この人の心の巨大で空虚な穴は今回の周防尊によって、更に広がってしまった。
それは王同士にしかわからない深い闇。
私がそれを埋めることは勿論、光を差しこむことすら難しいのだろう。
それなら、貴方が求め続けるまで私は傍にいましょう。
それが水泡に帰することであっても。
fin.
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ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!
えーっと何が書きたかったのかといいますと、
青側の「待つ女性」を書きたかったのと、
少しずつ歩き始める吠舞羅に対して
敵対する王でありながら「友人」と見ていた周防を
ダモクレスダウンを引き止めるためとは言え、
周防を殺めた宗像さんの闇の方が深いのではないかなと。
宗像さんの方が表面的には分かり辛くても、そこから歩き出すまでが、
厳しいというか難しいのではないかなと思って。
待っていた女性もその闇や深さには気付いていて。
どうしようもなくて。
でも傍にいたい。
そんな風に書きたかったんですけどね~。
いやはや。
お粗末様でした。
みふゆ