夜も更け、寒さが冷え込んできた頃。
私は震える端末を手にした。
「はい、御崎」
「私です」
彼の声にほっとしてゆっくりと目を閉じた。
「…はい」
「今はどちらに」
「まだ事務処理をやっています」
「そろそろ切り上げて寮に戻っては。今夜はそちらに戻れそうにありませんから」
「そう、ですか」
「今日はずっと事務処理を?」
「ええ、ストレインたちも事の成り行きを見守っているのか目立った事件もなく、事務処理がとても捗りました」
「それは何よりです。…少しは私のことも考えてくださいましたか?」
「…どうでしょう。帰ってきて下さった時にお伝えします」
端末越しに彼のクスリと笑う声が聞こえた。
「今から周防尊に会いに行ってきます」
「そう、ですか」
「ええ」
「…お帰りを待っていますね」
「ああ。…おやすみ、マドカ」
「おやすみなさい、礼司さん」
静まり返った部屋。
一つ小さく息を吐いた。
寮に戻ってもな…。
そう思った私は仮眠室に向かい、毛布を3枚ほど持ち、執務室へと向かった。
私が扉に手を触れれば、カチャリと音を立てて、鍵が開く。
室長がご丁寧に私が触れれば扉が開くというセキュリティーにしたらしい。
ソファに毛布を敷いて、束ねていた髪留めを外し、敷いた毛布の上に身体を預けて横になる。
手の中にある髪留めは彼からもらったもの。
そっと両手で包み込む。
寮に戻ってもどうせ眠れないだろう。
それなら貴方を一番近くに感じれる場所にいたいと言えばそれはわがままだろうか。
黙って待っているんだからそのくらいの我が儘は許して欲しい。
結局眠れずに室長室にあった書物などを読んでいた。
ぼんやりと外を見れば空は白み始めている。
夜明け、か。
コーヒーでも淹れて来ようかと思った矢先、端末が震える。
「…はい」
「おや、起きてましたか。私です」
疲れを感じさせない声に少しばかりほっと胸を撫で下ろす。
昨日連絡があった時には戦闘はしていないようだった。
「ええ、起きてました。おはようございます」
「おはよう。昨日はきちんと寮に帰りましたか?」
「いいえ。実は…あの後からずっと執務室にいます」
「…そうでしたか。マドカさん、貴方は本当に可愛い人だ」
「でしたら、帰ってこられたら…、私を抱きしめてくださいますか?」
「勿論。貴方が嫌がっても離しません。…必ず帰ると約束する」
どこか覚悟を決めたかのような声に、息が震える。
「…はい」
「マドカ」
「はい」
「愛している」
耳から届いた言葉は優しく私を包んで。
「私も青の王である室長もその身である宗像礼司も愛しています」
私の言葉もどうか彼を守ってくれますように。
「貴方は本当に…私の欲しい言葉をくれる。では切りますよ」
「どうかご無事で」
「ええ」