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いつものようにキャラ崩壊、設定無視などございます。
かなりのお目汚しとなりますが、それでも宜しければ。
ここは京にある新八が贔屓にしている蕎麦屋。
いつもの光景が始まる。
引き戸が開く。
「いらっしゃ…て新八か」
愛想の良い顔から急に素の顔になる。
「…お前さ~、『いらっしゃいませ~♪』とか俺に愛想よく言えないわけ?
おやっさん、いつものね~」
奥から「あいよー」と声がかかる。
「最初の頃は言ってたやろ?」
「…そうだっけか」
椅子に腰を下ろす新八。
「あんたが毎日のようにここに来るから、もう忘れただけちゃうん?」
「かもしんねーな」
小夜がお茶を出す。
「今日は空いてるな」
「昼、過ぎたしね」
奥から「小夜ー」と声がかかる。
「はーい」
気だるそうに奥へ入っていった。
運ばれてきた蕎麦を次々と平らげていく。
向かいには小夜が座り、肘をついて呆れた表情でその様を見ていた。
「あんたさぁ…。屯所でご飯食べないわけ?」
「それ聞くの何度目だよ。食べてるに決まってんだろ」
「自分の食べて、平助くんの分横取りして、ここでその量食べるんや。」
「わかってんじゃねーか。このデカい身体を維持するには、たらふく食べないとな♪」
「可哀想に平助くん。平助くんもまた連れてきぃや。…てかあんたその栄養、頭にも回した方がいいで?」
人差し指でこめかみをトントン叩く小夜。
「ばっか!俺は頭良いんだぞ?」
「ほんまにぃ~?原田さんとか斎藤さんとかの方が断然頭良さそうやん」
目を細め、睨む。
「わかってねーな、お前は」
「あんたに言われとぅないわ」
「そういやお前、この前俺と左之と斎藤と来たとき大人しかったよな」
「斎藤さんが大人しいに飲んでる横で、ワイワイうるさかったら可哀想やろ?
うるさいのはアンタだけで充分」
「あ?斎藤はいつもああだぞ?」
「斎藤さんも静かに呑みたい時もあるやろに、可哀想に」
目を伏せて軽く溜め息を吐く。
「お前も気ぃ遣うんだな~」
気が抜けたような声を出す。
「…どっかの筋肉馬鹿と一緒にせんといて」
「おい!筋肉馬鹿って俺のことか!」
「アンタ以外誰がおるの」
奥から器を持った男が現れる。
「小夜。永倉さんはうちの大事なお客さんやで?」
小夜を嗜めるように言う。
「父さん」
「そうだぞ、小夜。もっと俺を丁重に扱え」
にやにやと笑う。
「永倉さん、すまんね。昼の分はこれでおしまいや」
「わかった。おやっさん、いつもありがとな」
小夜の父にニカっと笑顔を向ける。
最後の蕎麦を豪快にすすっていく新八。
「…あんたなぁ、うちに丁重に扱ってほしいんやったらつけてるお代、はよ払いぃや」
「いつも月末には払ってんだろ?」
「あんたなんてな、いつ死んでもおかしいない身ぃなんやから、その都度払いぃや」
「ばっか、俺がそんな簡単に死なねーよ」
小夜を見つめながら口角を上げる。
「ご馳走さん、と」
手を合わせた後、立ち上がる。
「おやっさん、今日も美味かったぜー」
奥に声を投げる。
「おおきにー」
奥から声が返ってくる。
「またな、小夜」
小夜に笑いかけながら、手をひらひらとさせて店を出て行く。
「…気ぃつけて」
小夜はその広い背中をいつも見送る。
昼過ぎ。
小夜は引き戸が開けられる度に見、「いらっしゃいませ」と告げたあと
お茶を入れる時に小さな溜め息をついていた。
『新八が最後に来たのはいつやっけ…』
思い返せば池田屋事件が起こった翌日には、この店にきて武勇伝を語っていった。
翌日も、その翌日も。
何度も聞かされる話に文句を言いつつも、
小夜は新八の相手をしていた。
馴染みの客の相手を小夜がするのはよくあること。
毎日のように顔を出す新八にうんざりしつつも、新八との時間が小夜の楽しみともなっていた。
新八と小夜の会話を聞いていた他の客が
「何や、君ら夫婦みたいやな」
と笑いながら言ったことに対して
二人とも全力で否定して更に笑いを誘ったこともあった。
しかし油小路での事件からは店に来る日が開くようになっていった。
日が空くにつれ、新八はツケではなく、食べた後に払っていくようになった。
小夜の父は
「彼も武士やから色々と覚悟があるんやろな」
と呟いた。
そして。
小夜の耳にも「鳥羽伏見の戦いが始まった」と入る。
そんな中、客との会話で新撰組は大阪城に退いたと知る。
その後には江戸に向かったとの話。
小夜は心の中に出来た空間に戸惑っていた。
その一年後に箱館にて新撰組が解散したと聞いた。
「…死んだんやろなぁ」
暖簾を下げる時に見上げた夜空に呟く。
京の夜の静けさが身に染みた。
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「空が鳴っている」のかなめちゃんが言えなかった幻の「筋肉馬鹿」を
小夜ちゃんに言ってもらいましたwww
後編に続きます。
みふゆ