新宿駅からヴィーナスフォートまでは、およそ40分で到着できます。JR埼京線で大崎駅まで行き、そこでりんかい線に乗り換え、大井町、品川シーサイド、天王州アイルの次の東京テレポート駅で降ります。10分ほど歩けば目的地に着くのですが、折からの曇天模様は、駅に降り立ったときにはもう既に大粒の雨をアーケードの屋根に寒々しく降らせていました。12月の東京は、からりと晴れる印象があり、日本海側の地方都市に住む私は天気予報など見ようとせずはなから傘も持たずにやって来ました。いまさらどこかで購入する気にはなれず、意を決して冷たい雨に打たれながら駅を後にします。

 

ところでそのイベントはヴィーナスフォートのいったいどのあたりで開催されるのでしょう。周囲を見回してもまったく見当がつかず、ともかく人の流れにまかせて歩いて行くと、トヨタの大型ショールームに紛れ込んでしまいます。どうやら最新モデルのトヨタ車を好きなだけ見たり、試乗できたりするようですが、私にはとんと興味がないことです。踵を返して来た道を戻り、スマホでイベント案内を確認します。

 

2019127()13:30〜ヴィーナスフォート教会広場 カントリー・ガールズ「カントリー・ガールズ大全集①」発売記念トーク&特典会・・・・教会広場は、私にはとても思い出深い場所です。なぜならば、私は201728日、嗣永桃子さん卒業発表後の新曲リリースイベントで披露された名曲「ピーナッツバタージェリーラブ」によって、完全に彼女達の世界にどっぷり浸かることとなるのですが、そのイベント開催場所がヴィーナスフォート教会広場でした。私はハロステ映像でしか見たことがないこの地に対し、名状しがたい憧れを抱いているのです。

 

そしてその彼女達は、嗣永さんを失った後、山木梨沙さんと小関舞さんを残し、森戸知沙希さんはモーニング娘。へ、船木結さんはアンジュルムへ、梁川奈々美さんはJuiceJ

uiceへと兼任移籍することとなります。残されたふたりの活動も大幅に制限され、グループの未来ははなはだ危ういものとなるのですが、その翌年、梁川さんが卒業引退発表をして、さらに翌年の20191018日、同年1226日をもってグループは活動を停止し、山木さんは卒業引退、小関さんは芸能活動は継続するもののハロプロを卒業、船木さんは芸能活動を休止してハロプロを卒業し、ひとり森戸さんだけがモーニング娘。において活動を継続することとなります。

 

私はスマホから目を離し、やみそうにない雨空を見上げます。CD発売は開館の11:00からであり、その前に来た者は2階メインゲートから壁際に並ぶよう指示されています。現在の時刻は9:30を過ぎたところ。本当はもうすこし早く着きたかったのですが、なんだかんだで結局この時間になってしまいました。遠方に目をやるとその列は建物の屋根をはるかにはみ出し階段を下り、道路の方まで続いています。やはり2時間前には到着すべきだったと反省すると同時に、いっそう強く降り出した雨に絶対的に傘が必要であることを認識します。

 

この辺で傘が売ってそうなところはどこだろう。どう考えても駅に戻った方が良さそうなので、私は駆け足で駅へと戻ります。駅構内のコンビニで折り畳み傘を購入し、今度は傘をさしてそれでも足早に長蛇の列を目指します。程なく元の場所に戻るのですが、本当にこの列はカントリー・ガールズの列なのだろうかという疑問がわいてきます。最後尾へと進む道すがら何か証拠たるべきものはないか探していると、ある若い男性がカントリー・ガールズのTシャツを着用していることを発見します。私は安心して歩道まで伸びている列に並びます。 

 

そこへ松岡茉優さん似の女性がひとり現れ、私に「この列はカントリー・ガールズの列ですか?」と問いかけます。私はすぐに「だと思っているんですが」とその時実際に思っていたことを口にすると、彼女は元気よく「ありがとうございます」と言って快活に礼をして(かつて小関舞さんが徳永千奈美さんに「生意気すみません!」と元気よく謝罪したときのように・・・想像でしかありませんが)、そして私の後ろに並びます。

 

私はこの時の彼女のふるまいがあまりに潔く気持ちのいい感じがしたので、咄嗟に何か話そうという考えが起こってしまいます。彼女もきっとカントリー・ガールズに対する溢れる思いを両手いっぱいに抱えていることでしょう。そう考えながらもしかし実際どう話せばいいか分からず、おいそれと気軽に話し掛けるなんて行為ができません。そうこうするうちにスタッフがやってきて、列を二列に整理し始め、すると彼女は私のすぐ横に来ることになります。その状態はますます私を混乱に陥れるのですが、結局私が選択したのは、傘をさしながらもぎこちなくひたすら文庫本を読むことでした。約1時間後開場し、列は実にゆっくりと進んでいくこととなるのですが、その間彼女はずっと横にいるわけで、どうしたって意識せざるを得ません。そして私は長い行列の一部として彼女とともに屋内へと入っていき、CD購入後のトークイベントのときも別にそんなつもりはないのに何故かしら彼女の姿を見つけてしまったり、また握手券の列で30人くらい先にいる彼女を目で追ってしまいます。

 

一方、ステージ上部に設えてある大画面モニターでは、カントリー・ガールズのシングルMVが流れていて、それをぼんやり眺めていた私は知らず知らずのうちにメルヘン世界へと誘われていきます。眼前には、ハロステ映像でしか知らなかった教会広場が現実として広がっていて、そしてその先のステージには山木さんと小関さんが笑顔を振りまいています。ふたりともものすごく綺麗で可愛くて、セクシーです。山木さんは利発そうにテキパキ話していて、小関さんは、ユーチューブ動画なんかで見るよりもずっと美しいと感じます。このとき既に私は現実感を喪失し、あたかも自分自身が二次元世界に迷い込んだかのような錯覚に陥ります。

 

この夢のような空間において私は、山木さんと小関さんと握手するための列に並んでいることになるのですが、今回は主催者の粋な図らいか通常のそれよりもずっとひとりひとりの時間が長くとってあるようで、ずいぶんゆっくりとした流れの中で進行します。そうすると山木さんと小関さんのそれぞれに対し、何か話すことができる、いやむしろ話さなければならないことをいくつか考える必要が出てきます。いったい何を話せばいいのだろう?

 

ふと目をステージ上に転じると、くだんの彼女が今や小関さんとの握手に臨むところとなります。彼女は一目でそれと分かる様子で大きく深呼吸し、両手を胸に当てて自身の緊張を抑えます。そしておそらく手のひらの汗をぬぐい、その手を下の方に振ってリラックスしようと試みます。いよいよ彼女が小関さんに対面したとき、彼女の緊張は最高潮に達します。20mも先にいるその姿は満面に笑顔をたたえているものののあきらかに顔が紅潮し、こわばっていることが分かります。彼女は何かを話し掛け、小関さんは何かを答えます。そしてさらに彼女は二言目を言って、これに小関さんが答えます。それでもまだ時間があるようでそのまま握手した状態となり、ここでスタッフから促され、最後に彼女はもう一言言ってここで山木さんの方へ流れていきます。

 

やはりかなりひとりひとりの時間があるようです。普通どんなことを話すものなのだろう。くだんの彼女は何を話したのだろう。私の場合、まずもってカントリー・ガールズの握手会は初参加であるけれども、もちろん決して偶然や気まぐれなんかではない決然とした意思を持ってここまで来たのであるから、話したいことは絶対的にある筈なのです。しかしながらその場に合った雰囲気や言葉というものもあるだろうから、独りよがりの突拍子もない会話は避けた方がいいのではないかと勝手に色々思案します。本当は何を言ったって、ふたりはもはや百戦錬磨のプロなのだから上手に答えてくれることでしょうが、結局私はふたりには下手な質問をして考えさせるという手間はやめ、一方的に自分自身の思いを伝え、こんな奴もいるということだけで満足しようと決めます。

 

私が山木さんと小関さんに伝えたいこと・・・それは私は201728日、その日ここで開催された新曲リリースイベントで披露されたピーナッツバタージェリーラブを聞いて、カントリー・ガールズのファンになったということです。このことを分かりやすく短く伝えるためにはどういう風に要約すればいいのだろうか。そのまま言うと冗長になりすぎるだろうけれど、でも簡単な話、ピーナッツバタージェリーラブを聞いてファンになりましたってことなのです。そう言ったらふたりはなんと答えるだろう?いやもうそれでいいじゃないか。なんと答えようともあとは「頑張ってください」でいいじゃないかと独り言ちます。

 

そしていざ小関さんを前にします。私が彼女と握手して、彼女に話し掛けた言葉は、平静を装いながらもやはり緊張していたからなのか想定したものとはちょっと異なるものとなってしまいます。ピーナッツバタージェリーラブを聞いて好きになりました。すると彼女は、きっとあらゆるファンから様々な言葉を掛けられているのだろうけれど、この時一瞬どう答えていいか分からない表情となります。私はそのまま彼女の答えを待ちます。すると彼女から発せられた答えは「ありがとう」という言葉でした。次に私は用意していた「頑張ってください」を言って、それで私はその場を離れます。

 

次に山木さんの方へと進むのですが、私が早過ぎたのかまだ前の方が山木さんと会話中で、とても盛り上がっている様子です。程なくそれが終わり、次に私の番となります。ピーナッツバタージェリーラブを聞いてカントリー・ガールズのファンになりました。今度はちゃんと分かりやすく話すと、山木さんはプロらしく「ありがとう〜いっぱい聞いてね!」と言って、反対の手を振ってくれます。彼女に対しても用意していた「頑張ってください」を言って私の握手会は終わります。


屋外に出てみると雨はすっかり止んでいて、夕暮れ空にうっすらと彩色を帯びた雲がたなびいています。たしか嗣永さんのラストライブもこの辺だったはず。あの時も夕焼けの名残りを惜しむような黄昏が広がっていました。彼女の歌声が私の中で木霊し、ふいに中島卓偉さんがどこかのライブMCで話していたアイドルの人生はとても短いという話を思い出します。彼女達が煌めいている時間はまさしく一瞬だということなのでしょう。しかし彼女達の面影はこうやって私達の心の深いところに刻まれていくのです。

 

今、私は年が明けて202012日、例の携帯キーボードでもってパチパチと本当に久しぶりにこのブログを書いているのですが、カントリー・ガールズは既に活動を停止していて、それが証拠にハロプロオフィシャルサイトの所属アーティスト欄においてもはや彼女達の姿を見ることはできません。きっと山木さんは東京のどこかで一般人としての年始を過ごしていて、この春からはどこかの会社でOLさんとして働くのかもしれません。小関さんも大学進学の話をしていたのだから、今は受験勉強に勤しんでいて、やがて新しい大学生活が始まるのでしょう。皆それぞれの道を歩んでいくことになるのです。

 

それではそろそろ今回の握手会レポを締めくくりたいと思いますが、最後は私の大好きな弱気女子退部届から、次の歌詞で終わりたいと思います。

船木「いろいろあったね」

山木「ありすぎたよ!だから、気にしなくていいよ」

梁川「ありがとうございます」

森戸「いつもはバラバラだけど、集まると落ち着くんだよね」

小関「大人になっても集まれるかなぁ」

山木「大丈夫だよ。今までだってそうしてきたじゃん」

全員「そうだね」

全員「お互い、がんばろう!」

 

私はカントリー・ガールズの永遠のファンであることをここに誓います。

 

P.S.

旧年中はあまりブログを更新することはできませんでしたが、今年はせめて1週間に1回ぐらいは上げていきたいと思っております。そしてもちろんこのブログの設立趣意であるモーニング娘。と佐藤優樹さんを応援していくということに対しては、なんらブレることなく真っすぐに邁進していく所存でございますので、何卒皆様からの変わらぬご交誼のほどを賜りますよう切にお願い申し上げます。