あたりはもう暗くなっています。ここは人里離れたキャンプ場です。車から降りると、泣き出しそうな夜空が冷気を運んできて、私は首をすくめて持参したヨットパーカーを羽織ります。夏山の喧騒はすでに消え去り、静かな秋の夜更けにテントはひと組しか見あたりません。

 

私は先客から遠く離れた場所でシングルテントを広げ、LEDランタンのほのかな光をたよりに慣れない手つきで骨組みを取り出し、テントの穴に通します。なんとかそれっぽい形に仕上げると、その横で同じようにぎこちなく出来上がったテントから友人が顔を出します。まずは火を起こしましょう。

 

ふたつのテントの間にアマゾンで購入したファイヤーボックスを設置します。ユーチューブのキャンパーさんを真似てサバイバルナイフで薪を割っていきます。あらかた出来ればそこから細めのものを取り出し、先から順番に薄く削ってクリスマスツリーのようにします。フェザースティックってやつですね。これもすべてユーチューブの受け売りです。ツリーと薪をファイヤーボックスに入れて、上からオイルライターの油を振りかけ、火打ち石で一発着火です。みるみるうちに炎が燃え上がり、あたりはオレンジ色に染まります。

 

これまで私は、飯盒をパンを焼くための道具としていたのですが、今回は本来の使い方をしようと思います。つまり単純に飯盒でご飯を炊くということなのですが、まったくのド素人である上になんの下調べもせず適当にやってみます。薪をくべながら飯盒の様子をうかがい、蒸気の上がり具合や匂いなどを確認し、時折蓋を開けて中の具合を見て、なんとも忙しい小一時間が過ぎてみると実に見事なふかふかのご飯が炊き上がります。今度はフライパンに変えて薄切り牛肉200gを胡麻油で炒めます。そこへ出来立てのご飯を投入し、上からビビンバの元を掛けてかき混ぜ、ところどころ焦げ目などをつけて出来上がりです。ビビンバをプレートに移し、添え物はセロリとプチトマトのイタリアンサラダです。さあ召し上がれ。

 

夕食を美味しくいただき、読書タイムと洒落込みます。LEDランタンをテント内に持ち込み、もうひとつ上からも吊るしましょう。エアクッションを広げてその上に最低使用温度マイナス25℃の冬用シュラフを敷きます。シルクのインナーといっしょに中に潜り込むとこれがまたものすごく暖かいのです。しかしテント内で読書といってもやはり一人用は狭く、さらにあまりの暖かさに睡魔が襲ってきます。せっかくあれもこれも読もうと思っていたのにいつの間にやら夢の世界へ。たぶんまだ午後9時にもなってないはずなのに。

 

あっという間に朝の目覚めとなります。もっともあたりは真っ暗闇の午前4時。テント内でキャンプ道具を片付け、朝食に昨夜のビビンバと淹れたてのモカブレンドを用意します。身支度を済ませて、午前5時に出発です。目指すは3,000m級の北アルプス名山です。