キャスト

私:佐藤優樹

彼:工藤少年

 

次の角を曲がれば、当初の私と彼の目的地に到着する。しかしながら私はこの通りを真っ直ぐ進むのだ。断っておくがその予定は何も急遽こしらえたものではなく、最初からそのつもりだったのである。私は学校を出てすぐに待ち合わせ場所へ行くつもりなど毛頭なく、この先の本屋さんで時間をつぶしてからゆっくりと現れる予定だったのだ。

 

それがどういうわけか今、その待ち合わせの相手が私の後を無言でついてくるという滑稽な構図が出来上がっている。何も相手に気を遣って自分の進む道を変えることなどない。むしろふたり一緒に曲がって2丁目のコンビニに到着し、そこで初めて「さああなたのお家へ行きましょうか」などと会話する方が矛盾を感じる。私は堂々と私の道を進めばいいのである。

 

そしてその交差点に差し掛かろうとしたとき、私は心のどこかで罪悪感を感じあたかもそれを振り払うかのように歩むスピードを速めた。すると一定間隔をおいて進んでいた彼は、私に引きずられるように速度を速め、ふたりの本来の待ち合わせ場所を横目についにいっしょに交差点を渡り切ることとなった。

 

私はスピードを保ち、目的地は前方に見える本屋さんだと自分に言い聞かせ脇目も振らず進んで行った。そして不思議なことに彼もまた全く同じ速度で依然一定間隔をおいて私の後を何も言わずついて来た。交差点を渡る前までは、まわりの街路樹に目を止めるくらいの余裕があったが、渡り切ってしまうと途端にその風景は一変し、彼が何を考えているのか質したい衝動に駆られた。