主人公は、三十五歳の男だった。
名前はまだない。(名前ないの??)
彼は毎朝、同じ時間に起き、同じ電車に乗り、同じ机に向かっていた。
誰かに怒鳴られるわけでもない。
飢えているわけでもない。
だが、ある日ふと、自分の人生が「終わっている」ことに気づく。
夢はあった。
若い頃は小説を書きたかった。
絵も描きたかった。
誰かの心を震わせる物語を作りたかった。
しかし現実は、締切ではなく請求書に追われ、
情熱ではなく生活費のために時間を使い、
気づけば「いつかやる」は口癖になっていた。
そんなある夜。
仕事帰りに立ち寄った古書店で、彼は奇妙な本を見つける。
表紙には題名も著者名もない。
ただ黒い装丁に、銀色で一文だけ刻まれていた。
「人生をやり直したい者へ」
ページを開くと、最後の頁にだけ文章があった。
“時を戻すものは存在する。
ただし、それを手にした者は、必ず何かを失う。”
そして本の間から、一枚の古地図が落ちる。
地図の端には、見知らぬ土地の名と、赤い印。
その下にこう書かれていた。
「灰色の海を越え、“星喰いの塔”へ来い」
翌朝、男は会社を辞める。
貯金を崩し、最低限の荷物だけを持ち、旅に出る。
周囲は笑う。
「今さら?」
「現実逃避だろ」
「人生はやり直せない」
それでも彼は進む。
砂漠の街。
雪に閉ざされた国境。
嘘しか話さない案内人。
過去の後悔を見せる湖。
人の寿命を通貨にする市場。
旅の途中で、彼は何人もの「やり直したい人間」と出会う。
戦争で娘を失った老人。
才能を潰された画家。
愛する人を裏切った女。
夢を諦めた若者。
誰もが、「もしあの時に戻れたら」と願っていた。
だが旅を続けるうち、男は気づき始める。
本当に欲しかったのは、
“過去を変える力”ではない。
「もう一度、自分を信じられる人生」だった。
そしてついに、世界の果てにある“星喰いの塔”へ辿り着く。
塔の最上階には、白い髪の番人がいた。
番人は言う。
「人生をやり直す方法は確かに存在する」
「だが、お前が戻れるのは“過去”ではない」
「失ったと思っていた未来だ」
番人が差し出したのは、若返りの薬でも、時間を巻き戻す時計でもない。
――白紙のノートだった。
「書け」
「お前が生きたかった人生を」
男は震える手で、最初の一文を書く。
『これは、人生を終わらせ損ねた男の、最初の物語だ。』
その瞬間、塔の窓から朝日が差し込む。
彼は初めて知る。
人生は、一度しかない。
だが、人は何度でも“始め直す”ことができるのだと。
人生は一度しかない
わかってるけれど
何かを変えなければ
やらなければ
と思いつつも
時は無情にも過ぎて行くのだった
(自分の事です😹)