5-8.偽終止



偽終止とは、Ⅴ7からⅠM7に解決せずにⅠM7以外のコードに進むことです。


Ⅴ7-ⅠM7は強烈なドミナント・モーションで、ⅠM7に入った瞬間に終止感、安定感が生まれますが、敢えてこの終止感、安定感を避ける時に、偽終止を用います。


エンディングで、Ⅴ7からすぐにⅠM7に入ってしまわずに、他のコードへ進んで引き延ばしたり、曲の途中に入っているⅠM7の終止感を避けるために、他のコードに代えてよりスムーズな流れを作る、などの際に有効に使えるようにしましょう。



5-8-a.Ⅰの代理コード(およびそれに準ずるコード)に進む偽終止



・Ⅱm7(Dm7)・Ⅴ7(G7) → ⅠM7(CM7)


上記コード進行を元にして考えていきましょう(Key=C)。


Ⅴ7から、偽終止としてⅠM7に代わって向かうコードには、以下のようなものがあります。


1.Ⅲm7(Em7)

2.Ⅵm7(Am7)

3.♯Ⅳm7(♭5)(F♯m7(♭5))

4.Ⅲm7(♭5)(Em7(♭5))

5.Ⅲ7(E7)

6.Ⅵm7(♭5)(Am7(♭5))

7.Ⅵ7(A7)


1.2.3.は、トニックであるⅠM7の代理コード(5-3)


4.5.は、1.のⅢm7(Em7)に準ずるコード


6.7.は、2.のⅥm7(Am7)に準ずるコード


具体的なコード進行で見ていきましょう。


1.Ⅲm7(Em7)


・Dm7・G7 → Em7・Am7 → Dm7・G7 → CM7


いわゆる、ギャクジュン(逆循環コード)と呼ばれる進行で、この例はエンディングの引き延ばし方法として最もよく使われます。


2.Ⅵm7(Am7)


・Dm7・G7 → Am7・D7 → Dm7・G7 → CM7


Am7の次のコードをD7にすることによって、一時的にKey=GとなるⅡm7-Ⅴ7を作っています。


3.♯Ⅳm7(♭5)(F♯m7(♭5))


・Dm7・G7 → F♯m7(♭5)・Fm7・Em7・E♭dim → Dm7・D♭7 → CM7


Ⅴ7から♯Ⅳm7(♭5)に入り、最後のⅠM7に向かうまでルートが半音ずつ下降していくようにコードアレンジしたものです。


4.Ⅲm7(♭5)(Em7(♭5))


・Dm7・G7 → Em7(♭5)・A7 → Dm7・G7 → CM7


Ⅲm7(♭5)の後は、Ⅵ7を置いて、Ⅱm7(Dm7)へ向かうセカンダリー・ドミナント(5-2-g)のツー・ファイブ分割とすることが多いでしょう。


5.Ⅲ7(E7)


・Dm7・G7 → E7・A7 → Dm7・G7 → CM7


2小節目は上記のように、ドミナント・セブンを継続させると、よいサウンドになることが多そうです。


6.Ⅵm7(♭5)(Am7(♭5))


・Dm7・G7 → Am7(♭5)・D7 → Dm7・G7 → CM7


2.とほぼ同じですが、Ⅵm7(♭5)とすることにより、この部分だけ一時的にKey=Gmとなり、スポット的にマイナー感が強まります。


7.Ⅵ7(A7)


・Dm7・G7 → A7・D7 → Dm7・G7 → CM7


A7から、D7 → (Dm7)・G7という、ドミナント・セブンの継続が形成されています。



5-8-b.ⅣM7、Ⅳm7およびその代理コードに進む偽終止



これは、5-8-a.で見た典型的な偽終止とは若干趣が異なり、ⅠM7に代わって進行するコードが、ⅠM7を装飾する役割を果たすものです。


こちらも、


・Ⅱm7(Dm7)・Ⅴ7(G7) → ⅠM7(CM7)


上記コード進行を元にして、ⅠM7に代わって進むコードを考えていきましょう(Key=C)。


1.ⅣM7(FM7)

2.Ⅳm7(Fm7)

3.♭ⅡM7(D♭M7)

4.♭ⅥM7(A♭M7)

5.♭Ⅶ7(B♭7)


2.はサブドミナント・マイナー(5-3-c)、3.4.5.はその代理コード(5-3-d)でした。


それぞれ一例を見てみましょう。


1.ⅣM7(FM7)


・Dm7・G7 → FM7 → CM7


ⅣM7からⅠM7に解決することを俗に「アーメン進行」と呼びましたが(5-2-e)、Ⅴ7からⅣM7に進む進行は、実際にはあまり用いられません。


2.Ⅳm7(Fm7)


・Dm7・G7 → Fm7・B♭7 → CM7


サブドミナント・マイナーであるⅣm7から、その代理コードである♭Ⅶ7を通って、ⅠM7に終止しています。


3.♭ⅡM7(D♭M7)


・Dm7・G7 → D♭M7・CM7


ⅠM7の装飾和音として♭ⅡM7を用いています。


♭ⅡM7はこのように、ⅠM7を装飾する形でエンディングで特によく使われますが、♭ⅡM7の手前に、Ⅳm7(Fm7)やⅡ7(D7)を入れてもよい繋がりが出来るでしょう。


4.♭ⅥM7(A♭M7)


・Dm7・G7 → A♭M7・B♭7 → CM7


♭ⅥM7から♭Ⅶ7は非常によく使われる進行です。


5.♭Ⅶ7(B♭7)


・Dm7・G7 → B♭7・E♭7・A♭7・D♭7→ CM7


サブドミナント・マイナーの♭Ⅶ7から、ドミナント・モーションを継続させ(5-6-a)、Ⅴ7の代理コードである♭Ⅱ7(5-3-a)を経て、ⅠM7に落ち着く進行を作ってみました。


もちろん、♭Ⅶ7からシンプルにⅠM7に終止する例も多々あります。



Ⅴ7からⅠM7以外のコードに進む偽終止は、以上が主なものです。


全てエンディングや、曲途中の終止を避けるための「中休み」として使える考え方です。


代理コードや、サブドミナント・マイナーなどの事項は、よく再確認しておきましょう。



次回は、分数コードとその用い方について説明いたします。



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