5-3.代理コード
5-3-a.ドミナント・セブンの代理コード
前回の解説で、代理コードという言葉が出てきたのを覚えているでしょうか。
機能の変わらない他のコードを替わりに使う場合、その替わりのコードを代理コードと呼びます。
ダイアトニック・スケールにおけるその機能は、トニック、ドミナント、サブドミナントに以下のように分かれ、
トニックのグループ(T)…ⅠM7、Ⅲm7、Ⅵm7
サブドミナントのグループ(SD)…Ⅱm7、ⅣM7
ドミナントのグループ(D)…Ⅴ7、Ⅶm7(♭5)
同じ機能の中においては、(メロディとの兼ね合いもありますが)コードはいつでも交換できました(5-2-f.ダイアトニック・コードの機能分類参照)。
ですので、ドミナント・セブンの代理コードはまず、Ⅶm7(♭5)(Key=Cにおいては、Bm7(♭5))が挙げられます。
しかし、ドミナント・セブンの代理コードは、他に「♭Ⅱ7」というコード(Key=Cにおいては、D♭7)があります。
・ドミナント・セブンの代理コード
1.Ⅶm7(♭5)(Key=Cにおいては、Bm7(♭5))
2.♭Ⅱ7(Key=Cにおいては、D♭7)
ドミナント・セブンの代理コードは、上記2種類となります。
Ⅶm7(♭5)は既出ですので、以下の進行を見てみましょう。
D♭7 → C
ベースが半音下行する、非常にスムーズな流れです。
本来のドミナント・セブンであるⅤ7の特徴は、3度音と7度音のつくる、3全音(トライトーン)であったことを思い出してください(5-2-b.ドミナントとドミナント・モーション参照)。
G7の3度音(シ)と7度音(ファ)と、D♭7の3度音(ファ)と7度音(ド♭=シ)は全く同じです。
これが、♭Ⅱ7がドミナント・セブンの代理コードとなり得る所以です。
5-3-b.セカンダリー・ドミナントの代理コード
以下の進行をご覧ください(Key=C)。
F♯m7(♭5)・B7 → Em7・A7 → Dm7・G7 → CM7
上記例は、トニックであるCM7に向かって、Ⅱm7-Ⅴ7(ツー・ファイブ)を連続させたものですが、上記のセカンダリー・ドミナント・セブンス・コード(Ⅶ7=B7、Ⅵ7=A7)に代理コードを使うと、以下のようになります。
F♯m7(♭5)・F7 → Em7・E♭7 → Dm7・D♭7 → CM7
このように、トニックめがけて、ベース音が半音ずつ下がっていく、非常に滑らかでエネルギー消費量の少ないコード進行となります(1-3.音と重力、エネルギー消費量参照)。
5-3-c.サブドミナントマイナー
以下のコード進行を見てみましょう(Key=C)
Dm7・Fm6 → CM7
Fm6(Ⅳm6)は初めて出てきたコードですね。
Ⅳm6(またはⅣm7)のことを、サブドミナント・マイナーといいます。
ちなみに、Ⅳm6とⅣm7は、どちらもサブドミナント・マイナーですが、現在のポピュラー音楽では、前者が使われることが多いようです。
このFm6は、Key=CmからⅣmを借りているため、借用コードとなります。
サブドミナント・マイナーの機能はもちろんサブドミナントであり、トニックにもドミナントにも進むことができます(5-2-e.サブドミナント、トニック・サブドミナント・ドミナントの連結参照)。
憂いを帯びた非常に美しい響きであり、私個人的にも好きなコードでよく使っています。
5-3-d.サブドミナント・マイナーの代理コード
サブドミナント・マイナーには、代理コードが7つも存在するのですが、重要なものに絞って、簡単に解説するにとどめます。
1.♭ⅡM7(Key=Cにおいては、D♭M7)
2.♭ⅥM7(Key=Cにおいては、A♭M7)
3.♭Ⅶ7(Key=Cにおいては、B♭7)
1.♭ⅡM7は、先述のドミナントの代理コードに似ていますが、こちらはサブドミナント・マイナーの代理コードで、7thがマイナーかメジャーかの違いです。
Key=Cにおいて、
D♭M7 → CM7
のように、エンディングでよく使われます。
2.♭ⅥM7、♭Ⅶ7は、連続して使うことも頻繁にあります。
以下は、桑田佳祐さんの「白い恋人達」(Key=G)のサビのラストです。
E♭M7・F7 → G
サブドミナントマイナーの代理コードをうまく使った好例です。
このように、まずはしっかりとサブドミナント・マイナーを理解し、その代理コードで応用をきかせられるようにしてください。
5-3-e.トニックの代理コード
トニックの代理コードは、Ⅲm7とⅥm7は既出ですが、もう1つあります。
結論から示すと、
♯Ⅳm7(♭5)(Key=Cにおいては、F♯m7(♭5))
というコードです。
以下のコード進行(Key=C)を例にすると、
CM7・FM7 → Em7・A7 →...
を
F♯m7(♭5)・FM7 → Em7・A7 →...
のように使います。
Em7まで、ベースが半音下行しています。
曲途中のBメロの頭で、Ⅰを敢えて使わず、代理コードである♯Ⅳm7(♭5)を使って変則的な効果を出すのも手です。
また、♯Ⅳm7(♭5)は、トニックの代理コード以外にも色々使えます。
1.マイナーコードへ向けてのツー・ファイブを作る
例).F♯m7(♭5)・B7 → Em7
2.Ⅱ7の代理コード
例).CM7・F♯m7(♭5) → G7・C
上記例のように、Ⅴ7の前に来ると、Ⅱ7(9)のルート省略形として、Ⅱ7の代理コードとなります。
3.経過和音として使う
例).G7・F♯m7(♭5) → Fm7・Em7...
上記のように、♯Ⅳm7(♭5)は、ドミナント・セブンとサブドミナント(またはサブドミナントマイナー)の経過和音として挟み込み、ベースの動きを滑らかにする働きもあります。
トニックの代理コード、およびその他の使われ方については、やや応用的なので、頭の片隅に置いておく程度でよいでしょう。
サブドミナント・マイナーとその代理コードとして重要なものをしっかり押さえておいてください。
次回は、ディミニッシュ・コードやコード・パターンについて説明いたします。