『獅子の子落とし』という話があります。

獅子=ライオンは我が子を谷に落とし、這い上がった子だけを育てるんだそうです。自立する力を育てることが大切だと言う例えで、昔から言われています。

 

 同じような意味の『かわいい子には旅をさせよ』のことわざもあります。そんなイメージからでしょうか、子どもは、厳しくすれば強くなると信じられてきたようです。

 

 私(園長)が何歳だったか、憶えていることから4~5歳頃だったかもしれません、食事でお代わりをしたご飯を残したことがあります。そんな時、農家出身の父はいつも、「食べ物は大切にしなさい」と、子どもたちに教えていました。

 そしてその日も、「食べないならお代わりするな」と、叱られ、さらに、「それを食べるまでは次の食事はない」と言うのです。

 

 私は途方にくれました。目の前には、何とか食べようと試みた結果、ますますマズそうになったお醤油とマヨネーズで汚れた、食べかけの冷めたご飯が、夢ではなく残念ながら在るのです。そして次の食事の時も、約束通りそのプレミアムなご飯は、私の目の前に置かれました。

 

 しばらくそのご飯と対面した後、母が「これは母ちゃんが食べるから、お前は新しいのを食べな」と言い、ほっかほかの一杯をくれました。

 

 食べないなら捨てればいいものを、私の両親はそうしませんでした。今思うと、父も母も真剣だったのだと思います。「お前のことを掴んで離さないよ」と言う、愛のカタチだったのかもしれません。

 

 食事に限らず、あっさりと諦めてしまう風潮を肌で感じる今日この頃、子どもたちは、真剣に関わってくれる愛のカタチを誰かに求めているような気がしてなりません。親の都合ではなく、この子の成長のために譲れないことは、少なからずあるはずです。

 

 子育てに正解はありません。もし、ありもしない正解を求めるあまり、大切な愛のカタチを見失っているとしたら、子どもは寂しさを感じることでしょう。

 

 ちなみに、ライオンは母系家族で、子どもたちを皆で可愛がるそうです。